――『おちょやん』への出演が決まった時はどんな気持ちでした?
もちろん嬉しかったんですけど、すぐには受け止められなくて、「本当に僕なの?」と不思議でした。それまで朝ドラをちゃんと見たことがなかったんです。僕が撮影している間にちょうど放送が始まったので第一話から見て、そのすごさを実感して、プレッシャーも感じました。
――現場はいかがでしたか?
カメラが回る前に、ブーッて音がスタジオに鳴り響くんですけど、始まる始まる…ってドキドキしてました。でも、撮影したのも、ドラマの舞台も僕の出身地の大阪。スタッフさんもキャストさんも関西弁なので、僕的にはホームみたいで、恵まれた環境でした。
――放送はリアルタイムでご覧になりましたか?
見ました。自分の演技が全国に流れるのが怖くて、絶対に見ないと言い張ってたんですけど(笑)、普段は早起きしないのに、毎朝目が覚めるんですよ。ヨシヲが出ていた期間は反響がすごく気になって神経質になってたんだと思います。1回だけ“おちょやん”でSNSを調べたら、ヨシヲが好意的に受け止められていて、「ああよかった」ってほっとしました。ドラマの1週目からヨシヲの存在がしっかり描かれていたおかげです。
――出演後の反響はどうでした?
地元の友達やおじいちゃんおばあちゃんも見てくれて嬉しかったです。お父さんは僕の仕事を表立って応援してくれるタイプではないけど、5回も見てたって。僕とお父さんを作品が繋いでくれた。朝ドラは、やっぱりすごいです。
――ヨシヲは辛い幼少期を共に過ごし、生き別れてから女優になった姉と再会しましたが、どんなふうに演じたかったですか?
ヨシヲは姉やんが大好きなのに、成功への妬みもあって、虚勢を張ったり、心にもないことを言ったり。台本を読んだ段階では、ヨシヲの台詞や行動の裏にある痛々しさやたどたどしさを人間らしく表現したいと思っていました。台本をいただいてすぐに本読みがあったんです。初めてお会いした姉やんは温かくて気さくで、僕が思ってたヨシヲそのままで大丈夫だなって安心したのを覚えています。
――杉咲花さんのことを役と同じように姉やんと呼んでるんですね。
はい。1回目の撮影から1か月くらい空く時に、杉咲さんから「毎日メッセージを送り合って、会えない期間を埋めよう」と提案してくださったんです。敬語じゃなくていいからって。内容はたわいのない話でしたけど、そこで「姉やん」「ヨシヲ」の関係ができて、撮影にも繋がりました。
――共演した成田凌さんは事務所の先輩でもありますよね。どんな言葉を掛けられましたか?
「何もしなくていいから、堂々としとけ」ですね。やっぱり朝ドラ出演ということに、萎縮していたところがあったんですけど、経験の浅い僕が下手なのはみなさん承知してるはずなので、「堂々としてなきゃ」と思いながら演じられました。
――ご自分の演技は「下手」という分析なんですか?
そうだと思います。お芝居はそう簡単なものではないですし、僕はまだぺーぺーですから。だからといって、すごい方々を前に萎縮するのは失礼ですし、堂々とやるしかないと。でも、今まで自分で納得して撮影を終えられたことは一度もないです。「もっとできたんじゃないか」「ああやったらよかったのかな」と迷いが残って、泣きそうになりながら帰ってます。でも、この感覚は一生残っていくものだとも思うんです。お芝居には正解がないから。なので、少しでもいいものを作るために、下手なりに一生懸命やるだけです。
――成長するためにどんなことをやっているんですか?
リアリズム演技に関する本を読んだり、どんな時でも動けるように、体についても考えるようになりました。もともと姿勢がすごく悪くて、いろんな人から指摘されていたんですけど、自分でも作品を見ながら気になりだしたので、矯正器具を買ったんです。家でくらい、正しい姿勢でいたくて。
くら・ゆうき 1999年12月19日生まれ、大阪府出身。スカウトを受けた翌年の2019年、『トレース~科捜研の男~』でデビュー。その後、ドラマ『歌のおじさんEたん♪』、映画『樹海村』など話題作に次々と出演。’20年、池田エライザ初監督作『夏、至るころ』で初主演。W主演映画『衝動』は今年公開予定。運び屋の孤独な少年を演じる。
スター俳優役を演じたドラマ『半径5メートル』(NHK総合)は4月30日から放送スタート。ドラマ『FM999 999WOMEN'S SONGS』はWOWOWオンデマンドで配信、WOWOWプライムで放送中。映画『まともじゃないのは君も一緒』が公開中。さらに、今泉力哉監督作『街の上で』が4月9日より全国順次公開される。
シャツ¥34,100 パンツ¥83,600(共にヨウジヤマモト/ヨウジヤマモト プレスルーム TEL:03・5463・1500) シューズはスタイリスト私物
※『anan』2021年4月14日号より。写真・玉村敬太 スタイリスト・伊藤省吾(sitor) ヘア&メイク・NOBUKIYO インタビュー、文・小泉咲子
(by anan編集部)