オードリー・タン流の“感情抑制法” 重要なのは「呼吸と睡眠」

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2020.12.23
8歳から独学でプログラミングを学び、15歳でプログラマーとなり、台湾のデジタル担当政務委員(大臣)を務めるオードリー・タンさん。コロナ対策での手腕に注目が集まり、ネット上では、その名を見ない日がないほど。そんなオードリーさんが、ネット時代の感情抑制法を教えてくれました。
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――感情のコントロールに関して、オードリーさんは、幼少時、心臓の問題で、泣いたり怒ったりすると命に関わる時期があったそうですが、どのように感情を抑制していたのですか。特に怒りの抑制は難しいように思いますが…。

オードリー:自然な呼吸をして、寝ることです。目を閉じて眠りにつくことです。よく眠れないなら、少なくとも呼吸を整えることです。

――怒りの原因に目を向け考える必要はないのですか。

オードリー:心の中に、怒りのためのスペースを与えてあげてはどうでしょう。例えば、リビングやソファを用意するイメージ。そこへお客さんである“怒り”を誘導し、自由にしていてもらう。そうすれば、怒りと関わることが少なくなります。

――放置するわけですね。もし、思い出してしまったときは…。

オードリー:心の中に怒りがある、というのを見つけ出したときは、深呼吸をして十分な睡眠を取ってください。呼吸法は心身の調節にとても有効です。両親が気功をやっていたので、幼い頃に私も一緒に呼吸法を習ったことが役立ちました。

――くしくも“呼吸”は日本のホットワードです。今年は、正義感あふれるヒーローが活躍する映像作品がヒットしました。オードリーさんは、台湾のコロナ対策のヒーローのお一人。今、日本の若者の間では、あなたのようなリーダーの登場が切望されています。

オードリー:台湾は‘03年のSARSの感染拡大の経験があり、比較的十分な準備ができていたというだけのことです。日本の有事に関していえば、大震災の際には有志による“組織”ができ、災害救助を行うのを目にしてきました。たとえ物事を見る角度は違ったとしても、精神的な価値観を同じくする人と“組織”すれば、第1に自分一人でどうにかする必要がなくなります。第2に比較的実行可能な創造性、つまり、より良い方法を見つけられます。今、「Be Water」という、形にとらわれない柔軟な“創作”スタイルが各所で見受けられます(香港での抗議活動時、スローガン化した言葉に由来)。こうした“組織”では、必ずしも誰かがリーダーとして統率するわけではありません。このような方法を検討してもよいのではないでしょうか。

――また、台湾のコロナ政策の成功例や大規模な野外フェスが開かれたニュースなどを見聞きして「それに比べて日本は…」という嘆く声も巷にあふれています。

オードリー:南極も感染は広がっていませんよね(笑)。こうした問題は比べてもキリがありません。大切なのは、自分がそこで何ができるかという点。ひとたび“創作”を始めたならば、常にアイデアについて考えねばならず、不安な気持ちも消えていくのではないでしょうか。今の状況を変える第一歩は、先ほどもお話ししたように、とにかく価値観を同じくする人と“集まる”ことです。例えば、マスクの在庫マップも、元々は台南のシビックハッカーが友人らのために開発したもの。これに注目し、政府に在庫データの公開を求め、誰もが活用できるようにしたところ、多くのマップアプリが誕生しました。

――つまり、一人のカリスマを求めるのではなく、一市民が得意分野を発揮すべく集まり、大きな物事を成し遂げよ…と。これはオードリーさんがフォーカスしているSDGsの17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」に通じますね。青色の洋服をお召しになるのは、この17番目のシンボルカラーにちなんでいるとか。

オードリー:ここのところ着ている青のストライプの上着は、台湾の紡績産業団体・紡拓会がコーヒーかすとペットボトルをリサイクルして作った生地“咖啡紗”で仕立てた一着です。台湾人デザイナーの唐宗謙氏がこの布を使って、私のためにデザインしてくれたものを購入しました。素材自体が経済の循環を象徴していて“リサイクルすることで、より良い価値を創り出す”という彼らの精神を支援すべく、毎日着ています。中の藍染めのシャツは、雑誌でモデルを務めた際に用意していただいたものですね。台湾藍四季研究会と日本の全国阿波藍染織作家協会がコラボレーションするという企画でした。

――オードリーさんはインタビューなどの終わりに、アメリカのSFシリーズ『スタートレック』に登場するバルカン人の挨拶をされますね。人さし指と中指、薬指と小指をくっつける“バルカン・サリュート”のポーズを。

オードリー:それは、コロナの流行後からするようになった挨拶です。意味するところは「長寿と繁栄を」。このポーズなら、インターネットを通してでも、相手に祈りの気持ちを送ることができます。

――彼らは感情を抑制することができ、非常に論理的というキャラクター。まるでオードリーさんのようだと、トレッカーと呼ばれるファンの間で囁かれています。

オードリー:私はしばしばSF作家の言葉を引用しますが、バルカン人について特に考察したことはありません。

――そうでしたか(笑)。今日は日本の読者に、バルカン式ではない励ましの言葉をいただけますか。

オードリー:すべてのものには裂け目がある。しかし、その裂け目からは光が差すでしょう。

生い立ちからデジタル担当政務委員としての活躍ぶりまで、彼女にまつわるあらゆる情報を網羅した一冊『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』(アイリス・チュウ、鄭仲嵐 共著/1400円 文藝春秋)。巻末の防疫レポート「特別付録 台湾 新型コロナウイルスとの戦い」も必読!

オードリー・タン 1981年4月18日生まれ。台湾名・唐鳳。8歳から独学でプログラミングを学び、15歳でプログラマーとなり、翌年にはIT企業の共同経営者に。以後、フリーソフトウェアの開発等に取り組む。アップル社の顧問などを歴任し、33歳でビジネス界からの引退を宣言。2016年、35歳の若さで蔡英文政権に入閣、デジタル担当政務委員(大臣)に就任。

※『anan』2020年12月23日号より。写真・Ivy Chen コーディネーター・アイリス・チュウ インタビュー、文・堀 由美子

(by anan編集部)

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