きっと、人のことなら助けられる。小さな親切に心温まる待望の新作。
普段はのんびりした性格の美紗は月に一度、PMS(月経前症候群)による苛立ちが抑えられずにいる。彼女の勤務先に転職してきた山添君は気力がない青年だが、実はパニック障害を抱えている。互いの事情を知った二人は少しずつ相手を気遣うように…。瀬尾さん自身、2年ほど前パニック障害と診断されたという。
「山添君と同じで突然気分が悪くなって救急病院に行って検査したら、そう診断されました。今は薬にも慣れて元気にしています」
その前からめまいに襲われることがあり、周囲からPMSではないかと言われていた。
「それで、PMSで婦人科に通っているママ友から、イライラを抑えられずに夫に物をぶつけたりするなどと、大変そうな話を聞いてたんです」
恋愛も友情もないけれど、助け合う二人。といっても、素人の美紗が理容店に行けない山添君の髪を切ってビミョーな髪型にしてしまうことも。彼らのどの行動も押しつけがましくなく、マイペースで、だから相手も気が楽なのだろう。思わず笑ってしまうのがローソンのおにぎりのエピソード(どの場面で出てくるかはお楽しみに)だが、
「ワクワクしませんか? コンビニのおにぎりって、チェーンによって全然味が違うと思うんです!」
美紗のおおらかさと優しさは、著者自身が内包するものだと実感。
「自分のことは助けられなくても、人のことは助けられると思う。空回りすることもあるだろうけれど」
よく「自分を愛せない人は他人を愛せない」という文言も耳にするが、「それって不思議なんです。私は自分に興味はないけれど好きな人はたくさんいる。人助けも、私はつまらないことしかできないけれど何かしたいし、します」
読めばきっとあなたもこの本に助けられ、誰かを助けたくなるはず。
「いつも小説は、ただ楽しんでほしいという気持ちで書いています。でも本屋大賞の後みなさんからたくさん感想をもらって、私にも何かできることがあるのかな、という気がして。読んでちょっとでも明るい気持ちになってもらえたら、嬉しいです」
『夜明けのすべて』 PMSの美紗とパニック障害の山添。同じ職場の二人は、ささやかな親切で助け合うようになる。二人を見守る周囲の人(特に社長)も魅力的。水鈴社 1500円
せお・まいこ 2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年単行本でデビュー。’05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、’19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。©文藝春秋
※『anan』2020年12月16日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)