悪魔のような姉への愛憎を抱えた妹による、完璧すぎる未来の計画。
「編集さんと話をしていたときに、『姉と仲が悪いわけではないが、モヤモヤする部分はある』という話題になったんです。家族で同性だからこそ姉妹間には“立ち回りのうまさ”や“ちょっとしたずるさ”みたいなものへの複雑な感情があるのだなと。私自身は兄しかいないので、姉妹の関係性に興味が湧きました」
語り手を務めるのは麻友だけ。凜が麻友や周囲にしてきたひどいことは、すべて麻友の主観を通して語られる。凜の仕打ちに苦しむ麻友に同情しつつも、果たしてどこまでが真実なのかという思いも湧いてくる。
「たとえば友だちの家族の愚痴って、話者となる友だちの主観からしか語られません。他人にはなかなかわからないのが家族だと思います。姉は性格が悪く、妹はいじめられっぱなしという構図では妹が可哀想すぎますし、彼女もまたちょっと性格に難のあるキャラクターにしました」
途中、麻友は凜を姉と慕っている部分もあることがわかってくる。ゆえに、殺すという計画は本気なのか、それとも空想することで現実逃避してやりすごしているだけなのか。どこまで本気かわからない分、怖さは倍加する。
「こんな小説を書いておいてなんですが、私自身の実生活において、根っから悪質という人と関わったことがない。だからこそ、自分の力では太刀打ちできないような、本物の邪悪さと対峙する恐怖みたいなものに対して、妄想が膨らみました。むしろ振り切って書けた気がします」
積極的にいじめに加担したりはしなくても、怖じ気づいて止められないという自分可愛さは誰にでもある。
「多くの人の中にも、もちろん自分の中にも、そういう邪さがあることは認めざるを得ないと思いました」
ドロドロした感情が描かれている物語にもかかわらず、読後感は痛快だ。ラストで麻友が吐露する、前向きでクールな心情を見届けてほしい。
『悪い姉』 麻友が好意を寄せるクラスメイト〈ヨシくん〉や、親友の絵莉や有紗、姉の友だちでもある山本杏奈などとの関係性も、青春ぽくてリアル。集英社 1600円
わたなべ・ゆう 作家。1987年、宮城県生まれ。2015年、「ラメルノエリキサ」で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。他の著作に、『アイドル 地下にうごめく星』(集英社)など。
※『anan』2020年10月28日号より。写真・露木聡子(渡辺さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)