私たちの視線と心を奪う、さまざまな業界で活躍している男たち。彼らに対する「好き」という感情を一般的にはファン心理という。
「ファン心理とは、メディアなどを通じ、直接的な関係がない中で知り合った対象に、何らかの好意や応援する気持ちを持つことをいいます。調査によると、ここ10年間、ファン心理の性質自体に変化はありません。ただ、YouTubeやSNSなど対象を知るツールが増え、好意を抱くきっかけや対象の職業は変わりました」(臨床心理士・塚越友子さん)
一人のカリスマ的存在というより、愛される男も多様な時代に。
「いまは、“こんな人が愛される”という大きな傾向がないことが、一つの傾向。あえて言うと、ジャンルを問わず、悪い男よりも、爽やかさや品行方正さを感じる人が広い支持を集めているように思います」(劇団雌猫・ユッケさん)
そこには、いまの世相が反映されていると、イラストエッセイストの犬山紙子さん。
「不安定な世の中に心配を抱える人が少なくないからこそ、誠実な印象の人に注目が集まるのでは。ドラマ『愛の不時着』でヒョンビンさん演じるリ・ジョンヒョクが人気を博したのは、浮ついた感じのない姿に安心感を覚えた人が多かったからではないでしょうか」
愛される男たちの魅力を掘り下げるため、私たちの「好き」という心理の正体を専門家の分析を通して考察します!
専門家が分析する、「好き」の気持ちの正体。
愛される対象が多様だからこそ、ファン側の心理もより細分化される。自分自身でも気づいていない「好き」の理由がここにあるかも!
応援することで得る達成感。
愛する人を指す“推し”という言葉が生まれたように、「応援したい」という気持ちは代表的なファン心理のひとつ。
「目標に向かって頑張っている好きな人を見ると、相手が二次元の人物であっても、ただただ幸せを願うのみ。心から応援した分、上手くいった時には、私自身、満足感が生まれます」(犬山さん)
「グッズを買うなど投資する形の応援は、すればするほど相手に対する思いが深まるもの。『自我関与』という心理です」(塚越さん)
共感から生まれる自分への肯定感。
近年、熱狂的な支持を集めているVTuberなどの楽曲には、決して明るくない心情を歌ったものも多く存在する。
「ポジティブではない世界観を描いた作品に触れることで、無理をしなくていい、自分のまま偽らずにいていいと思うことができます。そうして、“私は孤立していない”と思えることが、癒しにもつながっていく。また、二次元もそうですが、ファン同士で愛する人の素晴らしさを称え合い、共感することも大きな癒しに」(犬山さん)
疑似恋愛感覚のときめき。
現実で触れ合うことがない相手に対しても、恋愛に似た感情を抱く人は少なくない。
「疑似恋愛は、尊敬と並びファン心理における2大巨頭のひとつ。現実では触れ合わないため、お互いに失望したり、傷つけられたりすることなく、ときめき続けられる点がポイントです」(塚越さん)
「現実の恋愛は、相手と会う時間などを合わせるのが難しい。その点、推しとの疑似恋愛は、時間の配分を自分で決めることができるし、適度な距離感もとりやすい。忙しいいまの女性にとっては、ときめきを得る相手として、いいのだと思います」(ユッケさん)
現実離れした理想の存在。
自分がいる世界とはかけ離れた場所にいる存在だからこそ、胸が熱くなることも。
「私たちが生きる日々の中には辛い気持ちになることも多いですよね。だからこそ、自分の好きな人を見る時間だけは、夢を見させてほしいと思うものだし、それを実現してくれる人に惹かれるのでは」(ユッケさん)
「ファン心理の原点は、直接的な交流のない人へのファンタジーを楽しみたいという気持ち。仕事などに追われる日常生活とかけ離れた遠い存在に憧れるのは、シンプルな心理です」(塚越さん)
第三者として成長を見守る心地よさ。
完成された姿だけでなく、その成長過程を眺めることに、喜びを見出すケースがある。
「未熟な頃から完成されていく姿を母のような気持ちで眺め、愛でる楽しさが。できないことがあっても“伸び代しかない、素晴らしい”、成長を見た時には、“成長過程を共有してくれてありがとう”と、ずっと見てきたからこそ、喜びもひとしおです」(犬山さん)
「近年のファン心理に関する調査によると、育成の魅力を感じる女性が増えています」(塚越さん)
塚越友子さん 臨床心理士、公認心理師。「東京中央カウンセリング」代表。「水希」名義の近著『不毛なマウンティングをかわす力』(KADOKAWA)が好評発売中。
ユッケさん オタク女子4人による同人サークル「劇団雌猫」のメンバー。著書に『海外オタ女子事情』(KADOKAWA)、編著書に『だから私はメイクする』(柏書房)など。
犬山紙子さん イラストエッセイスト。『スッキリ』(日本テレビ系)などに出演。近著に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社新書)。
※『anan』2020年10月14日号より。取材、文・重信 綾
(by anan編集部)