「事務局からかかってきた電話の声が暗かったので、最初は『やっぱり落ちたんだな』と。受賞が、すぐにはピンとこなかったです」。デビュー2作めの「破局」で、芥川賞を射止めた遠野遥さん。20代での受賞は、2015年上半期、第153回芥川賞受賞者のひとりだった羽田圭介さん以来となる。

好感度といびつさを併せ持つ主人公。独特な語りに搦めとられて一気読み。

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高校ラグビー部OBとして熱心にコーチをする傍ら、公務員試験の勉強に励む、大学4年生の陽介。恋人の麻衣子は政治家志望で、〈将来のためという理由で〉私生活や陽介のことは二の次。関係がぎくしゃくしているところに、陽介に好意を持つ灯が積極的に接近してきて…。緊張感のある三角関係が、陽介の考え方や生活などを浸食していく。

「書いていて、特に麻衣子と灯には驚かされましたね。このふたりの女性が計算外に勝手に突っ走ってくれたというか、僕の手の届かない、コントロールできないところでやったり言ったりしてくれたことが物語を動かした。むしろ、作者である僕がやっとついていく感じでした」

陽介は視点人物でもある。彼が見たものや思ったことの内面描写を軸に物語は進むが、その妙に冷めた語りに瞠目した読者も多かった。

たとえば、陽介が灯に、衣服越しに鍛えた大胸筋を触らせるシーンでは、〈灯は嬉しそうに笑い、それを見た私も嬉しかったか?〉と自問自答。表向きは、女性への気配りもできる高スペックのモテ男子。しかし、湧き上がる感情を自己確認せずにはいられないような、陽介の風変わりなメンタリティに、落ち着かない気持ちになってしまう。

「文章表現が特徴的だとはよく言われるんですが、僕としてはあまり意図していない。自分が感じるままに素直に書くと、ああなるんですよ。小学生のとき、友だちと夏祭りに行くのに連れだって歩いていたんですが、そんな自分を後ろで見ている自分がいるなと意識していました。それは強く記憶に残っている。小説を書くときにはいつも“自分を見つめる自分”がいる感じです」

主な舞台は、著者の母校・慶應大学のキャンパスがある三田と日吉だ。

「日吉駅にあるオブジェの『ぎんたま』とか、大学生の自分が見ていたものを書き込みました。慶應の関係者が読んでくれたら嬉しいです」

遠野遥『破局』 表向きは、恋とスポーツとセックスをエンジョイする主人公の大学生ライフ。彼の不穏な語りが本音の実況中継となり驚愕のラストへ。河出書房新社 1400円

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とおの・はるか 作家。1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。2019年に「改良」で文藝賞を受賞、同作を河出書房新社より刊行。‘20年、「破局」で上半期の芥川賞を受賞。東京在住。

※『anan』2020年9月16日号より。写真・土佐麻理子(遠野さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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