1972年にシンガーソングライターとしてデビュー。以来、音楽シーンのみならず、時代そのものを牽引し続けているユーミン。生み出す楽曲はもちろん、都会的なファッションやブレのない生き方が幅広い層に支持され、時に社会現象を巻き起こすことも。そんな発信するものすべてが多大な影響力を持つ“時代のアイコン”は、ananにも多数登場。対談企画やコラム連載、お悩み相談などあらゆるテーマで活躍し、初登場から40年以上にわたって共に誌面を作り上げてきたユーミンが小誌との思い出を語ってくれた。
「初めて登場したのは、’70年代の終わり頃だったかな。当時はまだ“スタイリスト”という職業が確立されていなくて、誌面で着る衣装はすべて自分でコーディネートを組んでいました。昔は世に出ていないクリエイターとセッションしてよく作品撮りをしていたんですが、ananでのスタンスはその感覚に近かったかもしれないですね。編集者の意図を理解して、スタイリングや写真、テキストへと落とし込んでいく。その中で思わぬ化学反応が生まれて、面白いページができていった。ananって、常にちょっとエッジーな存在でしょう? 当初から企画やレイアウトにオリジナリティとプライドが感じられた。それもあって、ファッションやメイクを含めて他ではできないことにも挑戦できた気がします」
過去の誌面を見ると、登場する企画ごとにイメージがガラリと変わっている点に気づかされる。いずれも一切古さを感じさせないどころか、今見ても新しい。
「企画に合わせてはいるものの、’80年代後半のスタイルは今見るとアゲアゲ(笑)。’90年代に入ってくると、一転して抑えたムードになっています。スーパーモデルがもてはやされていた時代から、ケイト・モスのような脱力系が支持されるようになっていったのがこの時くらいから。不思議なもので、自分の中で違和感を抱きだすと、自然と世の中も変わっていくんですよ。私の場合は動物的なカンが働くのか、流れが一般化するより3~5年ほど早いみたい。その感覚は昔からありますね」
時代の数歩先を行く感覚の鋭さは現在も変わることなく、最新の音楽事情やファッショントレンドにも精通。今回の撮影では、ズラリと並んだ衣装の中からオリエンタルな柄のドレスをセレクトし、「少し先には、またこんなムードが来る気がしています」と語る。とはいえ、本人は時系列上での“古い/新しい”の線引きは特に意識していないという。
「音楽でもファッションでも、好き嫌いがハッキリしている方がスムーズに時代に乗っていけると思うんです。古いものでも自分が好きだと感じたらそれが最新だし、新しいものでもピンとこなければスルーしていく。そこはブレない方がいい。先日テレビのチャート番組を見ていたらウェスタンとヒップホップのハイブリッドみたいな曲が流れていて、面白いなって感じたんです。以前なら絶対に混ざらなかったであろうものが合わさっていて、スゴいとこ突くなって。たまにそういう発見があるのはやっぱり楽しいですね。でもね、私ってやっぱり鼻が利くみたいで(笑)。イントロで“これイイ!”って思ったものは、長くヒットしたりするんです」
そう話す表情は、茶目っ気たっぷり。半世紀近くトップランナーであり続けることのプレッシャーや葛藤は想像を絶するけれど、時代に向き合うことをどこか楽しんでいるようにも感じられる。
「新しいものに出合うのって億劫じゃないですか。エネルギーも必要になるけれど、そこにはきっと何かがある。そう思って、出合うための労力を惜しまないようにしています。年齢とともにモチベーションの保ち方も変わってきて、今はモチベーションを上げることが大変になりつつある。でも、やめたらそこで終わってしまうでしょう? だからファッションしかり美容しかり、どんな手を使っても先に進みたいと思っているんです。もちろん、すべての前に音楽ありきですが」
“どんな手を使っても”という、強い言葉に驚く。溢れるほどの才能に恵まれ、アーティストとしてこれ以上ないほど成功している現在も、さらなる進化の道を選び続ける――。色褪せることのない輝きの裏には、強い覚悟と決意があった。
「自己分析をした時に、実はストレスがあるくらいの方が精神的に安定するってわかったんです。私にとってストレスがない状態は、白いトンネルの中にいるようなもの。ビジョンがないことが逆にストレスになってしまうんですよね。なので、周りに協力してもらいながら自分に適度な負荷をかけて、ちょうどいいバランスを常に探っているんです」
この3月にはSuchmosのライブにゲストボーカリストとして出演するなど、新たな取り組みにも果敢に挑戦。音楽配信を通じ、国や世代を超えたファンも増え続けている。凄まじいスピードで世界が変化していく中、今なお時代から求められることについて本人はどう感じているのか聞いてみた。
「“何かヒントが欲しい”“新しいものに出合いたい”と思っている人に応えることが私の役割なのかなって感じることがあります。意識的に提示しているわけではないけれど、誰かが何かを求めている時に必要なメッセージを私や私の楽曲から受け取ることがよく起こっているそうなんです。そういう意味では、神様のような存在に曲を書かされている部分もあるのかもしれないですね。私自身も、ツアー先に漂う空気や人の気を感じながら昔のナンバーを歌った時に、“この曲はこういう意味だったんだ”って改めて気づかされることがあるんです」
千本の手であまねく衆生を救済する千手観音のように、多くの楽曲をリリースすることで時代が求めるヒントを提供し続けているユーミン。常に先を見据えて進化を遂げていく一方で、変わらずに守り続けているものがあるのだとか。
「時代とともに変わっているのは、現象として見える部分だけ。目に見えない部分は変わっていないと思う。むしろ本質を変えないために、見える部分を変えているのだと言えるかもしれません」
変えたくないもの(=本質)を守るためには、変化していくことが必要。それは、雑誌にも共通する部分があるという。
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「ananも時代に合わせて変化していますよね。でも、目に見えないところにきちんとカラーが存在している。50年の歴史から立ち上ってくるその“スピリット”のようなものを作り手の方々が感じ取ることができれば、今後さらに出版界が変化していってもananの“イズム”は続いていくと思う。アウトプットの仕方が変わっていく中、信じるべきはただそこだけ。これからもその本質を変えることなく、時代の先陣を切るとんがった雑誌であり続けてほしいと願っています」
まつとうや・ゆみ 東京都出身。1972年にシンガーソングライターとしてデビューし、38枚のオリジナルアルバムをリリース。『TIME MACHINE TOUR』のDVD/Blu‐rayが発売中。シャツドレス¥249,000 ネックレス¥57,000(共にマルニ/マルニ 表参道 TEL:03・3403・8660) ピアス¥30,000(カミーユエンリコ/アイクエスト ショールーム TEL:03・6433・5208)
※『anan』2020年3月11日号より。写真・下村一喜(AGENCE HIRATA) スタイリスト・槇原亜加音 ヘア&メイク・遠山直樹 取材、文・真島絵麻里
(by anan編集部)