謎めいた女たち、翻弄される刑事。一件の殺人事件の背景にある深淵。
出発点はというと、「これまでも精神的なSとMを書いてきましたが、今回はど真ん中でいこうと思い緊縛師について調べたら、ものすごく深い世界が見えてきて」
SMの世界で、人間を縄で縛る緊縛師。まずその歴史をひもといた。
「古武術に由来し、罪人を早く正確に縄で縛る技術が発達し、女性だけが演じる歌舞伎の折檻の場面でも表現されたそうです。使用される麻縄は、神社の注連縄(しめなわ)にも使われますよね。そこから麻が日本文化に欠かせないものだったと分かり、これは面白い話になるなと思いました」
前半で富樫は参考人の桐田麻衣子を庇(かば)おうとするが、ベテラン刑事の葉山は彼の不審な言動を見逃さない。そこから少しずつ被害者周辺の複雑な人間模様が明かされ、中盤、あっと驚く出来事が起きる。
「富樫や葉山、他の人物たちもみんな揺れている。人は誰もが生きにくさを抱えている。読むと逆にほっとするという意見も聞きます」
麻衣子以外の女性や、悪魔的な男の存在も強烈。愛情と猜疑心、悪と善、過去と現在が交錯する展開のなか、快楽と苦痛も溶け合っていく。
「緊縛というと縛る側が縛られる側を痛めつけるイメージがありますが、実は縄師は相手が縛ってもらいたいところを縛っていくという、基本的には奉仕する側。主役は女性なんです。縛られる側の女性に取材もして、縛られることで逆に自分を精神的に、そして性的にも解放できるということを知り、ものすごく深い世界だと感じました。縄の練習もしまして、今では雑誌を資源ゴミに出す時に亀甲縛りとかでまとめられます(笑)」
すべてが明かされた時、そこに何が残されるのか。
「悪に見えた人間も含め、みんな、ただ精いっぱいそこにいただけだ、と感じます。それが不思議な前向きさを醸し出していますよね。昔の僕だったら、こういう結末は書かなかったような気がします」
今の世界を見て今の中村さんが感じることが、ここに反映されている。
『その先の道に消える』 緊縛師の男が遺体で発見され、少ない手がかりの中から一人の女性の名前が浮上する。その女性・麻衣子に惹かれていた刑事の富樫は、隠蔽を画策するのだが…。朝日新聞出版 1400円
なかむら・ふみのり 作家。1977年生まれ。2002年「銃」で新潮新人賞を受賞しデビュー。’05年『土の中の子供』で芥川賞、’10年『掏摸(スリ)』で大江賞受賞。「銃」の映画化作品が公開中。
※『anan』2018年12月5日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)
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