「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、本作『1ミリの後悔もない、はずがない』でデビューした一木けいさん。帯には「椎名林檎さん絶賛!!」の文字が躍り、無意識にハードルが上がっていたのだが、その期待をまったく裏切らない、小説を読むことの楽しさを純粋に味わわせてくれる連作短編だった。
book

1作目は「どこにも行けない閉塞感を書きたかった」という、受賞作「西国疾走少女」。由井という女性が、中学時代に住んでいた西国分寺のこと、そして初恋の同級生・桐原のことを大人になって思い出すのだが、当時の彼女の家庭環境は複雑で、桐原に会うまでは人生に何の希望も見出せないような状態だった。

「強い子を書きたかったんです。人の目を気にしないで、こんなふうに生きられたらいいなっていう憧れの部分もありましたし、境遇はまったく異なりますが、中学時代の自分の思いも乗せて書いています」

桐原を好きになり、受け入れてもらうことで、由井は初めてこの世に生まれたことをよかったと思い、自分の存在を肯定できるようになる。騒々しい教室の片隅や放課後の帰り道、泊まりがけのスキー教室などを舞台に描かれる、思春期らしい不器用ながら繊細な心情。好きな人を前にしたときの目眩がしそうなほどの高揚感や、ほんの少し離れることを考えるだけで湧き上がってくる悲しさがとてもリアルで、こちらまで切なく、くすぐったくなってしまう。

「自分のなかに、中学生のときの感情が当たり前のように残っているので、彼女たちを書くことに難しさを感じないんです。イタい大人なのかもしれないですけど(笑)。体が内側からパンと大きくなって、自分が自分ではなくなっていくような感覚も、はっきり覚えています」

そのほかの4編には、当時の由井と多少なりとも同じ時間を共有した人のその後が描かれているのだが、彼らもみな何かしらの後悔を抱えて、現在と過去を行き来している。

「私としてはほかのところをえぐっているつもりだったのですが、きっとどこかに潜んでいたんでしょうね、後悔という感情が。気がついたら、最初から最後まで後悔でした」

誰かを愛することの狂おしさを知っている人は、たとえ今が満ち足りているとしても、後悔という感情からは逃れられないのかもしれない。

いちき・けい 作家。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR- 18文学賞」読者賞を受賞。アンアン2093号官能特集内で短編小説を書き下ろしている。現在、バンコク在住。

絶望的な日々のなかでの鮮烈な恋の記憶を描いた「西国疾走少女」、変わり果てた憧れの先輩と再会する「ドライブスルーに行きたい」など5編。新潮社 1400円
絶望的な日々のなかでの鮮烈な恋の記憶を描いた「西国疾走少女」、変わり果てた憧れの先輩と再会する「ドライブスルーに行きたい」など5編。新潮社 1400円

※『anan』2018年4月18日号より。写真・土佐麻理子(一木さん) 大嶋千尋(本) インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)


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