
小説『オルロージュ』の作者、小川 哲さんにインタビュー。
後半は、僕の感じる虚しさが、読者の気持ちにも繋がっていくんじゃないかな、と
26歳のキャピタリスト・桐田奈南(きりた・ななみ)と同い年の敏腕科学者・倉敷秀斗(くらしき・しゅうと)がタッグを組んで、ベンチャー企業「オルロージュ」を立ち上げる。二人きりの会社がどんどん大きくなっていくプロセスを詳細に描き出していく長編小説『オルロージュ』は、エンターテインメントの快感がギュッと詰め込まれている。
「桐田はオルロージュを“世界一の企業”にしたいという目標を掲げていて、そこに向かってみんなで走っていく。1話ごとに一緒に働く仲間が増えていく序盤は特に、週刊漫画っぽいなと自分でも思いましたね。“世界一の企業”になってほしい、と願いながら書いていました」
快進撃に説得力を感じられる理由は、桐田たちが事業の核に据えている「光合成をするコンクリート」が魅力的だからだ。製品化されれば、地球温暖化を食い止める画期的発明となる。ただし、問題はまだまだ実験段階にすぎない、ということ。
「オルロージュは、ディープテック企業(最先端の科学技術を用いた事業により、社会問題の解決を目指す企業)に設定しました。なぜそうしたかというと、僕もそうなんですが、ほとんどの投資家は最先端の科学のことなんて理解できないんですよね。論文を読んで投資するかどうか判断する、ということはまずできない。その会社なり事業の雰囲気で、お金を出すか出さないかを決めているところが往々にしてあるんです。事業規模は大きいけれど、事業の中身は怪しい企業、日本にもいっぱいありますよね。いっぱい、は言いすぎかな。結構あります(笑)」
物語は後半に至ると、空気がガラッと変わっていく。
「会社としてサバイブするために必要なことと、会社の理念とが常に噛み合うとは限らない。紆余曲折ありながら成長し続ける企業の姿だけ描いてもよかったんですが、何かが掛け違ってしまった時の姿も書いてみたかったんです。前半は、僕がこの物語を書きながら感じていた楽しさが、読者の楽しさに繋がっていたと思います。後半は、僕の感じる虚しさが、読者の気持ちにも繋がっていくんじゃないかな、と」
現実ではなかなか得られない深い感情を楽しむという意味で、虚しさもまたエンターテインメント。稀代のエンタメ作家ここにあり、と叫びたくなる一作だ。
Profile
小川 哲
おがわ・さとし 1986年、千葉県生まれ。2015年『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。’23年に『地図と拳』で第168回直木賞を受賞。
information
小説『オルロージュ』
キャピタリストの卵・桐田奈南と、中学の同級生で科学者の倉敷秀斗。二人は「オルロージュ」を起業し、会社を大きくするが……。
講談社 2585円
anan 2517号(2026年10月28日発売)より






























