
漫画『濃藍(こいあい)アパートメントの猫』作者、木村さくらさんにインタビュー。
猫は猫であるから尊いと感じます
絵本編集者の遠久野(とおくの)と、美美(びび)と呼ばれる猫との出会いは17年前に遡る。美美は出入り自由の、半分野良のような状態で関係を築いてきた。そんな人と猫との日常を描く『濃藍アパートメントの猫』の著者が木村さくらさんだ。本作では、木村さんが同人誌として作品を発表していた頃の登場人物たちを、そのまま活躍させている。
「遠久野と、彼の職場の後輩・近場。その青年ふたりを主人公として始めた物語なんです。大家のハルさんや小学2年生の住人・ジャスミンなどもそうです。そのころから美美もちらっと出てきていて、遠久野が住んでいるところも同じ、あの丸い窓のアパート。そのまま何もいじらずやりました。長い時間をかけてひとつの世界を作ってきたので、それを活かさない手はないと思って。このマンガはそんな時間の蓄積なんです」
遠久野と美美には「一緒に暮らす」と「所有する」の間のような距離感を感じる。猫マンガでありながら、人間の営みがそれとフラットな比重で扱われているのが面白い。
「遠久野が美美に〈美しい〉とつぶやく場面があるのですが、これをナチュラルに言えるのが彼の魅力。本心を言葉で表せる人は素敵です。近場の素直さや底抜けの明るさが好きと言ってくださる方も多いですね」
木村さんは、大学時代に抽象画制作に没頭。水彩を使うことはあっても、風景画すら描いていなかったという。だが、水彩画風のタッチは本作に活かされていて、魅入られてしまうコマが満載だ。特に印象的なのが、猫の目や鼻のズームアップ。

Ⓒ木村さくら/少年画報社
「猫好きでも、おめめフェチの人もいるし、鼻好き…“おはにゃ”好きって言うんですが、そういうフェチの人もいる。お尻とかも。可愛いパーツに萌える人のための読者サービスに近いかもしれないです(笑)」
美美をはじめ、猫たちにはモデルがいるのだろうか。
「これまで会ってきた子が多いけれど、美美はその複合体ですね。私は生まれたときから猫が一緒にいて、飼い猫、野良猫、我が家に通ってくる半野良の猫など、周囲に無数の猫がいました。そのせいか、生き物は自然とともにあるもの、という感覚があるんです。描くときには猫らしさを感じる動きを意識します。ドアをすり抜けるときや、寝るときにぐるぐる回ってから寝姿勢を取るなど。日常の自分の目に焼き付いているものですね。マンガで猫を擬人化する描き方もあると思うんですが、私としては人に寄せすぎない表現をしたい。猫は猫であるから尊いと感じます。その上で共存する面白さ、ありがたみを描いていきたい」
Profile
木村さくら
きむら・さくら マンガ家。東京都出身。2018年よりコミケなどで活動したのち、'25年1月に商業デビュー。本作を奇数月刊の猫マンガ雑誌『ねこぱんち』にて連載中。
information
漫画『濃藍(こいあい)アパートメントの猫』1巻
美美は美しい長毛の白猫だが、いまや結構な年齢だったりする。その長い年月が、遠久野と美美の間に流れてきたことを静かにかつ雄弁に物語るコミック。
少年画報社 935円
anan 2510号(2026年9月2日発売)より
































