
ノーベル文学賞を受賞した韓国人作家、ハン・ガンさんの未邦訳作品を翻訳した斎藤真理子さんにインタビュー。
ハン・ガン文学の原点から現在までを読み解く一助となるならうれしいです。
アジアの女性作家で初めてノーベル文学賞を受賞した韓国人作家のハン・ガンさん。彼女の未邦訳作品を、斎藤真理子さんの個人訳で読めるのがこの「ハン・ガン コレクション」(全5巻)だ。
今年6月に出版された第1巻『私の女の実』を皮切りに、およそ半年に1冊のペースで刊行される予定とのこと。注目は、ノーベル賞受賞という追い風を受けた企画ではなく、2024年の春ごろからラインナップを固めていたという点だ。
「日本では『菜食主義者』以降の作品が先に紹介されたため、それ以前の初期作品が長く未訳のままでした。作家の全体像が見えない現状では、ハン・ガン論を書くにも限界があります。別の訳者の方も指摘していたことですが、そうした空白を埋めるためにも、初期作品を出版したいという思いがずっとありました」
本書には、1990年代後半に書かれた短編を収録。斎藤さんが「訳していて、初読と到達点の距離がいちばん大きかった」と語る「赤い花の中で」も入っている。
「韓国仏教というのは女性信徒が支えているところが大きいと前から感じていましたが、宗教学の研究者の方にも助けていただき、作品の土台への理解が深まったんです。すると、母娘の言葉少ない関係性や沈黙の意味も少しずつ変わってきました。そういう意味でも印象深い作品です」
24歳のときのデビュー作は、本コレクション第4巻『麗(ヨス)水の愛』に。
「私の印象では初期作品ほど暗くて、デビュー作『赤い碇』はその代表格ですけれど、新人賞の審査員が“この当選者が明るい人生を歩んでくれることを望む”みたいな講評が添えられたくらい(笑)。見ようによっては、その若さですでに完成していたというか、世界を俯瞰する視点と、子どもや女性の弱い声に耳を澄ませる能力というハン・ガンさんの作家性は、デビュー当初からすでに彼女の中に存在していたといえるかもしれません。彼女は繰り返し、夢の反復や、暴力と静寂、生者と死者の境界といったモチーフを変奏曲的に書き続けています。また、日本の読者に向けての書き下ろしメッセージや、続く刊では西加奈子さんら、彼女の作品を敬愛する作家たちが寄せている解説も読めます。ハン・ガン文学の原点から現在までを読み解く一助となるならうれしいです」
Profile
斎藤真理子
さいとう・まりこ 翻訳家。訳書多数。このハン・ガン コレクションで個人訳を務めた。ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞記念講演「光と糸」やエッセイなどを含む作品集『光と糸』の訳も担当。
information
「ハン・ガン コレクション」
『菜食主義者』の前身である表題作を含む8編。本書では作家・桜庭一樹さんの感動の解説もご堪能あれ。全巻完結は2028年夏を予定。
白水社 2640円
anan 2509号(2026年8月26日発売)より
































