
Web、YouTube、リアルイベントと、オモコロワールドを拡張した立役者。ひとつの時代を終え、彼は今どこへ向かうのか。
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14年間にわたりオモコロ編集長を務め、今年2月に引退した原宿さん。4月に開催されたセルフプロデュースの「原宿引退式」にはオモコロメンバーや多くのファンが集まり、過去の功績を振り返った。新編集長みくのしんさんに物理的にユーモアを手渡し、ラストでは坂本九の名曲「見上げてごらん夜の星を」をみくのしんさんのサックスに合わせて歌い上げ、巨大な屁張岩(へっぱりいわ)の前で編集長としての役目を終えた。現在ひとりのオモコロライターに戻った原宿さんは、Podcast『原宿の今じゃない企画室』のMCをはじめ、外へ外へと世界を広げ始めている。編集長として培った経験は、原宿さんの中にどんなふうに蓄積され、武器となっているのだろう。その脳内を覗かせてもらった。
細部への好奇心が、 ワードセンスに結びついた
── 今回は原宿さんのクリエイティビティの源泉に迫りたいと思っています。まず個性豊かなキャラクターの命名などワードセンスが天才的という印象がありますが、言葉の使い方や語彙をどんなふうに身につけられてきたんでしょう。
何か特別なことをしたわけではないと思うんですよね。でも思い返せば、細かいところに面白さを見る感覚があったのかもしれないです。小さい頃にやってたゲームの『三國志』には「関羽雲長」みたいな難しい名前の武将がいっぱい出てくるんですね。子供心に「これのどこが名前なの?」って思いながらも、字面がかっこいい人たちが1000人くらい出てくる。『銀河英雄伝説』もそうで、登場人物が多い叙事詩みたいな作品が好きでした。なかでもチョイ役が好きで、歴史に名を残した関羽より、チョイ役の彼は何をしたんだろうと気になる。そういうマイナーな人物に思いを馳せて光を当てるのが好きでしたね。
── 大河の小さなところに引っかかるというか。
そうですね。劉備、張飛、関羽の「桃園の誓い」というできごとがある一方で、それをただ見てたやつもいるんだろうなあって。二次創作も読んでましたし、「この武将ってそんなかっこよく書けるんだ」みたいな同人文化を知って、細部を作る面白さがわかった気がします。
── ゲームでいうと攻略本には必ず用語解説が付いてますもんね。
ああ、確かに『サイレントヒル』の攻略本にもクリーチャーの説明が詳細に書いてあって、裏側って面白いんだなと思いました。そういう細かいところを見るのが、ネーミングとかワード選びに影響しているのかもしれないです。真っ当じゃなく、ちょっとズレてるけど何かしら背景がありそう。そういうフレーバーになるような言葉が好きなんでしょうね。
── ワードセンスを磨くためのアドバイスはありますか?
そうだなあ、その名前がついた何かが、世に出た時の想像をしてみる、ですかねえ。例えば「咎人の雛(とがびとのひな)」だったら、ああいう人物がどういう名前で世に出たら「おっ」って思うか。これが「ジェームス何々」だったらそんな面白いと思えないかもしれない、と想像しながら、その像に寄せていく感じですかね
滑ることも必要だから、サジェストはしない
── 原宿さんはPodcastや記事の執筆など企画を考える機会が多いと思うんですが、アイデアはどんな時に浮かびますか?
うわあ〜、浮かばないっすねえ。思いついた端から投げる感じですね。書くっていうより「投げる」。スタッフさんと一緒のLINEでもチャットワークでもメモアプリでも、バーッてそこに投げ込んでいきます。
── それがアイデアの種になるんですね。では、インプット術、アウトプット術と呼べるようなものってありますか?
気になったら見に行く、ぐらいですね。映画でも本でも、少しでも琴線に触れて気になるなと思ったら細かいことを考えずに行く。計画的ではなく衝動的です。
── 時間管理はされていますか?
いや全くです。あ、でも最近移動しながら書くっていうのを始めました。会社や家にいると刺激が足りないのか、なかなかやる気が出なくて。移動したほうが活性化して書けますね。
── なるほど。それはカフェを転々とするようなことですか?
どこでもいいんですよ。とりあえずカフェでバーッとやって1時間くらいしたら移動する。ショッピングモールのベンチもいいですよ。タダで座れますから。あとは電車の中とか。
── ということはパソコンじゃなくスマホで書いてるんですか?
はい。スマホです。記事でもエッセイでも、予め全体の流れを作っておいて、そのあとパソコンでまとめるほうが書きやすいです。最近は特にそういう感じですね。
── 企画案や記事の感想を伝える時の、原宿さんなりのフィードバックの仕方はありますか?
僕は割とスピードタイプですね。今も記事を読んだら感想をすぐ返します。「面白いね」「最高!」くらいですけど、まず投げて、あとで気になることがあれば追加で伝える。内容に関しては基本的にサジェストしてもしょうがないと思うんですよ。滑るのも重要だと思うので。
── なるほど。手出しはしない。
はい。自分がこの作品を作り直そう、みたいな感覚は特になかったですね。記事として出してみて、反応を見ながら自分の感覚で合わせていけばいいかなって。
── オモコロを見ていると、原宿さんには愛され力がある気がするんです。本筋から脱線したり飛躍したことを言ったりしても許されているというか、むしろみんながそれを求めている感じもあって。ご自身ではどう思われますか?
愛され力か〜。あるんですかねえ。でも結局、僕は感じたままを話すことしかできないんですよ。面白い、つまらないって正直に言うだけ。だって、自分が自分でいる以外に何かできるだろうかって思いません?
── 確かに。取り繕ってもしょうがないですもんね。まっすぐに自分に嘘をつかないというか。
嘘ともちょっと違って、つまり僕は感じたことが全部出ちゃうんですよ。「あ、バレる!」って。でも全てはバレていくんだから、最初に「つまんねー」って感じたら、もう「つまんねー」って言うしかないんです。そのあとで「こういう見方は面白いかも?」と思ったら言い直せばいい。とにかくその時点で感じたことを出す。だから自分から「愛されたい」とは思ってないですね。
── 狙ってない姿勢が、愛され力に繋がるのかもしれないですね。
愛されたくて何か言う人って、透けて見えちゃいそうですしね。「ウケそう」と思って行動するのがしんどいのと似てる気がします。でも僕はこの発言でいいのかなっていつもせめぎ合ってますよ。そうやってせめぎ合ってるのもいいのかもしれないですね。
YouTubeは立ちっぱなし。深く深く座りたい
── ちなみに原宿さんが最近ハマっている「好きなこと」は?
インスタのリール動画を見ることですね。まず幅広い属性の人がいて、何のフォーマットでもないことをやってたりするんです。
── インスタは他のSNSと比べてマスですもんね。それだけ様々な立場のユーザーがいるという。
そうなんですよ。なんだかインターネットの初期っぽくて、面白いのにウケてなかったりすると「もしかしたら何かの発明なのかな」と思ったり。いわゆる江戸走りみたいなものが今もこの瞬間に生まれているんだと思うとワクワクします。あとウケたいなっていう承認欲求も少しあってほしいんですよね。この人の中では熱を持ってるんだろうな、でもウケたくもあるんだろうな、そういうちょうどいい感じの人を見つけられた時は嬉しいですね。
── プライベートの時間は充実していますか? ご家族や娘さんとのコミュニケーションとか。
そうですね。子供はもう10歳なのでちゃんと人間ですね。黙ってこっそりYouTubeを見るとか、お小遣いを2回貰おうとするようなずる賢い面を見ると、頼もしいなって思います。知恵を働かせてるんだな、いいぞって。でも今の時代は情報に溢れてますから、親離れ子離れもどんどん早くなるんじゃないですかね。
── お父さんの仕事についてはある程度理解しているんですか?
そうですね、僕の日記を読んで「私のことも書いて」って言ってますけど、そのうち嫌がるんじゃないかなあ。
── 原宿さんが今後挑戦してみたいことはありますか?
あらゆることに興味がありますよ。でも一回閉じこもりたいかもしれないです。ここ数年開きっぱなしなんですよ。「オモコロチャンネル」が始まってから、出力が永遠に止まらない状態なんです。本当の意味で座ってない気がするので、一回落ち着いて座りたい。深く深く腰を掛けたい。
── 椅子に一回座りたいと。
椅子というより切り株ですかね。森の奥にある、周りが開けた土地の、小動物たちが集まる切り株に、深く腰掛けたい。いろんな鳥が集まってきて、気がついたら肩に止まったり。その中心にある切り株に、深く深く腰を掛けたい。今はそんな気持ちです。
── やっぱり YouTubeに出続けるって体力を使うんですね。
そうですね。テレビに出ている方々もそうなのかもしれませんけど、常に反射が要求されるんですよ。反応するほうの自分を売り物にしてしまっているので、反応しない自分に会いたいです。
── Podcast『原宿の今じゃない企画室』も表立つ仕事ではありますよね。YouTubeと感覚は違いますか?
自分で喋らないと進まないから「これも俺か」みたいな感じはありますね。ただ番組の趣旨は「流行りを追わずに深く考える」なので、やりたいことのひとつではあるんですよ。それに映像の自分を意識しないでいいし、編集もできるから楽かなとは思うんですけど。
── こうやってお話を聞いていると、“文化人”を求められることに息苦しさを感じることも?
そうですねえ。本の帯コメントを頼まれると、少しでも数字になれば嬉しいですけど、「俺が書いてどうなるんだろう」とは思いますよ。ありがたくもあり、知らんがなでもある。コピーや書評を考えることは僕の本質的な部分ではない気はしますね。だからやっぱり腰掛けたいですね。「原宿さんは腰掛けたい」。
── 『岸辺露伴は動かない』じゃないですけども。
はい。切り株にいったん腰掛けたいと思います。一人で。
Profile
原宿
はらじゅく 神奈川県出身。ライター、編集者。2010年にバーグハンバーグバーグ立ち上げに参画。'12年からオモコロ編集長に。今年2月退任。Podcast『原宿の今じゃない企画室』配信中。
写真・内田紘倫(The VOICE) スタイリスト・井田正明 ヘア&メイク・櫻井華奈(HITOME) 取材、文・飯田ネオ
anan 2509号(2026年8月26日発売)より
































