中高生の頃、古文の授業は好きだったという角田光代さん。 「『枕草子』や『方丈記』などのエッセイ系が好きで、『源氏物語』には特に思い入れはなかったんですが、今回訳して面白さに気づきました」
源氏物語

現代語訳に取り組んだ日本文学全集『源氏物語』の上巻は、「古文が苦手だった人でもすらすら読める」と評判だ。

「目指したのは読みやすさ、格式のなさ(笑)。複雑な敬語、建物のつくりの説明などは省き、人の感情の動きを際立たせるようにしました」

全体を俯瞰して、何が起きているのかもよく分かるようにしたかった、と角田さん。ひとつのエピソードを読むだけでは分からない、全体の流れが見えてくるのが本書の特徴。

「たとえば上巻の後半で光君が都を離れて明石の君に出会いますが、それよりずっと前に、家来たちが明石の君の噂をする場面があります。その時からもう、明石の君との一連の出来事は始まっているんですよね」

読み進めれば、エンタメ性の高さに改めてびっくり。

「男の人たちが恋愛談議をするボーイズトークがあったり、光君と頭中将のやけに親しい感じがBL的だったり。みんなすぐ和歌を詠みますが、それは現代のインスタグラムのようなもの。日本人は今も昔も、瞬間を切り取ることが好きなんですね」

さまざまなタイプの女性たちが登場するのも読みどころだが、

「“気が強い”“おしとやか”といった性格ではなく、その場の感情によって個性が表現されているのも面白いです。その気持ちは理解できるぞ、というのが多いですね。光君があまりに美しくて引け目を感じる様子は、私も若い頃きれいな男性がいると“きれいだと思っていると思われないようにしなきゃ”と意識しすぎて言動がおかしくなったりしたので、よく分かります(笑)」

角田光代

また、翻訳を通して光君の印象もずいぶん変わったという。

「スーパーヒーローだと思っていましたが、実はクヨクヨしたりすねたりと人間らしい。感情のある男の人だなと思って。それが魅力だし、だから女性たちはみんなこの人が忘れられないんでしょうね」

現在、中下巻の翻訳作業中だが、さらに感情描写が深みを増しているとか。上巻を読んでしばし待たれよ。

かくた・みつよ 作家。1967年生まれ。’90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。’96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、’05年『対岸の彼女』で直木賞など多数受賞。

『源氏物語』の現代語訳に角田光代さんが挑戦。上巻は二十一帖の「少女」までを収録。中巻は来年5月刊行、下巻は来年末の刊行予定。河出書房新社 3500円

※『anan』2017年10月4日号より。写真・土佐麻理子(角田さん) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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