
漫画『999号室』の作者、南賀なんさんにインタビュー。
現代のSNSへの違和感も重ねました
終末を思わせる荒廃した世界。主人公の逓信所飛脚業代員〈1871号〉は、きょうも巨大な集合住宅に暮らす異形のものたちへ「手紙」を届ける──。彼が己の労働によって〈人民券〉を貯め、いまいる場所とは違う〈1等居住区在留券〉を手に入れようとしているのはわかるが、それ以外の情報はほぼ謎のベールに隠されたまま。それでも設定のスケールの大きさは否応なく伝わってくる。その著者が、南賀なんさんだ。
「最初に浮かんだのは〈999号室〉という文字と巨大集合住宅群の重なったイメージでした。それまで描いていた読み切りでは、そのときどきの自分の思いや問題意識を主人公に託して描いていました。しかし、連載という長い物語では夢や復讐など主人公自身が何か大きなゴールを目指すわけですから、自由に動けなくなることが心配で。そこで、1871号にはあえて強い悩みや目標を持たせず、彼が出会う異形のものの悩みに光を当てようと。ゲストキャラクターへ自分の関心や感情を投影することで、そのときどきのライブ感を大切にしながら描けると思ったし、主人公が部屋を巡るグランドホテル形式もそこから思いつきました」

Ⓒ南賀なん/小学館
異形たちは各話ごとに個性があり、キャラクターデザインも印象的。
「まず異形のものたちが言いそうなことを考え、その言葉に合ったビジュアルを探すようにしています」
たとえば、1話目の「Room No.001」で1871号が手紙を渡す相手は、6本腕の女性だったり、10人暮らしで各人の思いが渾然となった大きなかたまりのような存在だ。その6本腕の女性は2話目の「Room No.002」で活躍。1871号は彼女から、手紙はくれるが会いに来てくれない恋人への未練を打ち明けられ、解決の名案を出す。
「言葉とキャラデザを組み合わせるのは難しいですが、とてもやりがいを感じる部分です。さらに、現代のSNSへの違和感も重ねました。あとがきにも書きましたが、本来、言葉や思いには“届くべき相手と届くべきタイミング”があるはずなのに、それが混乱して、暴走している気がするんですね。だからこそ、確実に相手へ届く手紙という存在を物語の核に据えたいと思ったんです」
忘れてならないのは、1871号のよき相棒〈とと〉。打ち合わせではいなかった実家の犬をネーム作業のときに登場させてみたのだとか。
「『うちの犬が出ている』と両親が喜んでくれたらいいなと。編集部や読者の方々にも思っていた以上に歓迎していただき、結果的に、主人公だけでは出せない温かさをととが自然に補ってくれていると思います」
作中の階級社会における労働の意味や、999号室が示すものなどが一本の線としてどうつながっていくのか、続刊が待ち遠しい。
Profile
南賀なん
なんが・なん 1999年、兵庫県生まれ。大学在学中の2020 年に「ヤングジャンプ月例賞」佳作となり商業デビュー。本作は『月刊!スピリッツ』で連載中。
『999号室』1巻
誰も見たことがない廃墟のような街を想像で立ち上げ、写し出す画力に圧倒される。デジタルで描いているが、どんな細かな線も一本一本自らペンを入れるそう。
小学館 770円
anan 2508号(2026年8月19日発売)より
































