
7月15日から開幕する舞台『NORA』で主演を務める、黒木華さんにインタビュー。約150年前に描かれた戯曲をスマートフォンを用いて大胆にアレンジした、本作のみどころは?
150年近く前の戯曲がスマホで新たに蘇る
地位も名誉もある優しい夫。しかし愛情だと思っていたその優しさが、“従順で可愛い妻”に向けられたものであったとしたら──。現代にありそうな夫婦の価値観のすれ違いを150年近く前に書いたのがイプセンの『人形の家』だ。黒木華さんが主人公・ノラを演じる舞台『NORA』は、この戯曲を現代にアレンジしヨーロッパ各地で大きな話題を呼んだ作品。会話の大半がスマホでのコミュニケーションに置き換えられ、舞台上にスマホの画面が投影されるという趣向で展開される。
「舞台上にそれぞれのスマホの画面が映し出された状態でお芝居が進んでいくので、これまであまり観たことのないような舞台になっていると思います。セリフ自体、普段私たちが使っているような言葉に変えていいと言われており、スマホの待ち受け画面やSNSのアイコンも、自分の役なら何を選ぶかを考えて設定できるのでとても面白いですが、やることが多いので大変です(笑)」
なんとテキストのやり取りは、実際に俳優が舞台上でリアルタイムに入力した文字が反映されるという。
「誤字脱字をなるべくしないように気を付けなければいけないのですが、その間にも生活が続いているので、打ち込むのは子供の世話をしたり、別の人と会話しながらになります。段取りもあり、どうしても意識が分散されてしまうので、気持ちを繋げていくのが難しいです」
でもまさに今の我々も、仕事や家事や日常のこまごまとした雑事をしながら、離れた誰かと文字だけの会話を交わすのが日常になっている。そんな現代ゆえの葛藤も浮き彫りに。
「『人形の家』はフェミニズム運動の象徴のように捉えられることが多いですが、昔なにかで、生前のイプセンが、自分は人間を描いただけだと言っていたというのを読んだことがあります。でもだからこそ、普遍性があるんだろうと思います。この戯曲が書かれた時代に比べて、女性の人生の選択肢が広がって自由になったぶん、その責任も大きくなっています。スマホなどから入ってくる情報が増えて、何が正しくて何が間違っているのか判断しづらくなっている中、自分自身を見つけることがより難しくなっている気がします。ノラを演じながら、夫に相談したいけれど、仕事で忙しそうだからと気を遣い、子供の面倒も見て、スマホのメッセージも返さなければいけなくて…とやっていると、自分は孤独だなと感じる瞬間があります。ノラが、このままでいいのかと気づきを得る瞬間が、イプセンの原作を読んだ時に受けた印象とは結構違って、それも面白いなと思っています」
演出を手がけるティモフェイ・クリャービンさんはロシア出身で、現在ヨーロッパで注目を集める存在。
「役者の芝居を見ながら楽しんで、進んでいく方向を一緒に見つけていこうとしてくれる演出家なのかなという印象です。ロシア語で通訳さんを介している難しさもあるけれど、繊細な心理を描いた作品だからこそ、ティモフェイがやりたいことと役者それぞれが演じていて思うことを、お互いに誠実にすり合わせようとしている、とてもいい現場です。私は、もともと演出家の意向を伺ったうえで、そこに自分の感じたことを乗せて積み上げていきたいタイプ。お互いが違うところにフックを掛け合い、上に登っていく感じが好きだし、それが楽しいなって」
これまでにないアプローチで展開されていく舞台への期待値は高い。
「離れた場所にいる登場人物たちが同時に舞台上にいて、3か所でバラバラなことが起きているので、観る側は結構忙しいかもしれません(笑)。でも、どこにフォーカスを置いて観るか、観客側が選べるのが舞台の魅力ですよね」
Profile
黒木華
くろき・はる 1990年3月14日生まれ、大阪府出身。大学在学中の2010年にNODA・MAPの舞台『表に出ろいっ!』でデビューし、映像、舞台で活躍。近作にドラマ『銀河の一票』、舞台『ここが海』などがある。
information

『NORA』
弁護士の夫・ヘルメル(勝地)と幸せに暮らすノラ(黒木)。ある日、銀行の頭取に着任予定のヘルメルの元に、友人で部下になるはずのクログスタ(鈴木)が訪ねてくる。実はクログスタは解雇予定で、代わりに部下となるのはノラの友人のクリスティーン(瀧内)だった。
7月15日(水)~26日(日) 池袋・東京芸術劇場 プレイハウス
原作/ヘンリック・イプセン『人形の家』 演出/ティモフェイ・クリャービン 出演/黒木華、勝地涼、瀧内公美、鈴木浩介ほか
S席1万500円 S席(前半割/平日夜割)9000円 A席7000円 U25チケット5000円 U18チケット1000円 東京芸術劇場ボックスオフィス TEL. 0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00) 宮城、愛知公演あり。チケットサイト
写真・小笠原真紀 スタイリスト・Lim Lean Lee ヘア&メイク・下永田亮樹 インタビュー、文・望月リサ
anan 2504号(2026年7月15日発売)より
































