
photo Julien Panie Ⓒ2025 AGAT FILMS, LE PACTE
7月17日公開の映画『新凱旋門物語』。パリでの巨大建築をめぐって、芸術に、国家に、苦悩する男の姿を描く。
国家プロジェクトに挑む、無名建築家の行方
1989年のフランス革命200年祭で披露するモニュメント建設のデザイン公募が行われる。ミッテラン大統領が選んだのは、無名のデンマーク人建築家ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセンの斬新なデザインだった。フランスでの建設経験がないヨハンをシャルル・ド・ゴール空港の設計で名を馳せた有名建築家ポール・アンドリューがサポートする形で建設が始まるが…。
エッフェル塔やノートルダム寺院などランドマークが数多いパリ。なかでも観光客を魅了するのが、歴史的建築物やモニュメントがほぼ一直線に連なる「パリの歴史軸」だ。ルーヴル美術館中庭にあるガラスのピラミッドを起点とし、コンコルド広場のオベリスクやシャンゼリゼ通り、凱旋門を経て、到達するのが新凱旋門。キューブをキューブ状にくり抜いた巨大な箱形モニュメントで、中央に雲型の屋根が漂っている。実にミニマリスト好みの現代建築だ。本作は、ミッテラン大統領主導のパリ都市再生計画で誕生したこの新凱旋門建設をめぐる実録小説『新凱旋門物語 ラ・グランダルシュ』を下敷きにした人間ドラマだ。
「生涯初の大仕事」に挑むヨハンが直面するのは、技術的問題や建築基準、行政や予算問題などさまざまな困難。しかも美に対する彼のこだわりが、泥沼化する事態をさらに悪化させていく。ミケランジェロが使った大理石を用いて、理想のフォルムを作り上げようとするヨハンの芸術家魂はある意味、崇高だ。
とはいえ関係者の利権や予算問題などが絡む建設現場の裏側は決して美しいものではないし、理想を追うヨハンが次第に風車に立ち向かうドン・キホーテに見えてくる。彼が精神的に疲弊していく姿は、見ている方も辛くなるほど。

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そんなヨハンの思いを受け止めつつ、現実的打開策を模索するポールやプロジェクト統括者シュビロンも建設を軌道に乗せようと彼らなりに戦うのだが、想定外の事態が発生する。独自のビジョンを実現しようと努力するヨハンの物語は徐々に生臭くなり、理想主義の脆さを浮かび上がらせる。
国家プロジェクトの前では、美を追求する芸術家など吹けば飛ぶような存在でしかないのか? コンペに勝利して新国立競技場のデザイナーに選出されたものの、噴出する批判を考慮した日本政府によって白紙撤回された故ザハ・ハディド氏を思い浮かべる人も多いかもしれない。
ステファン・ドゥムースティエ監督が本作を通じて投げかける、芸術と国家の関係性はどうあるべきか、創造性の追求には限界があるべきかといった問題は熟考に値する。
ヨハンを演じたのは、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で国際的に注目されたデンマーク出身の俳優クレス・バング。物静かだが強い意志を秘めた建築家を巧みに体現している。そして芸術性と現実の折り合いをつけようと苦心するプロフェッショナルなポール役のスワン・アルローや、嫌みな存在と思われがちな官僚シュビロンをコミカルな味わいでチャーミングな男性に変えたグザヴィエ・ドラン、さらには無表情を貫いたミッテラン役のミシェル・フォーの抑制の利いた演技も強く印象に残る。俳優たちが互いの良さを引き出し、物語にさらなる深みと奥行きを与えていると実感した。
information
『新凱旋門物語』
監督・脚本/ステファン・ドゥムースティエ 出演/クレス・バング、スワン・アルロー、グザヴィエ・ドラン、ミシェル・フォーほか
7月17日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
anan 2504号(2026年7月15日発売)より
































