内臓脂肪がつく仕組みを知ろう!
「これまで脂肪が溜まる順番はまず皮下脂肪、次に内臓脂肪、最後に肝臓の脂肪といわれていました。ところが最近では、皮下脂肪が溜まる前にいきなり内臓脂肪がついてしまう人が増えているように思います」
と言うのは、肥満治療の専門家・栗原毅さん。その傾向はとくに若い女性に増えているという。
「10数年前、仕事で中国を訪れたとき、若い女性がジュースを飲みながら街を歩いていて、そのほとんどがお腹がぽっこり出ていたんです。本当なら中年以降の女性に多い体型なので、一体どうしたのかという疑問を持ちました」
若い女性の場合、脂肪がつくのは腰まわりで、お腹につく脂肪は中年以降に溜まる内臓脂肪のはず。これはファストフード文化が中国に根付いた頃のこと。食文化の変化と内臓脂肪には、関係があると栗原さんは言う。
日本の女性にとってもこれは人ごとではない話。でも、そもそも内臓脂肪って一体何? 知っているようで知らない内臓脂肪のこと、先生、教えてください!
Q1. どこに、どのようにつく脂肪?
A. 代表的な内臓脂肪は、小腸を包む膜に溜まります!
内臓脂肪とは文字通り、内臓の周囲につく脂肪のこと。代表的なものが小腸のまわりの内臓脂肪。小腸は6~7mもの長さがある臓器で、腸間膜というハンモックのような膜でお腹に固定されている。
「この腸間膜にある脂肪細胞には通常でもある程度の脂肪が溜まっています。ところが、カラダの中でエネルギーとして使われなかった栄養素が中性脂肪となって腸間膜の脂肪細胞に溜まりすぎると、内臓脂肪型肥満になるのです」
Q2. 皮下脂肪との違いは何?
A. 最大の違いは、病気の原因になること。
皮下脂肪は皮膚のすぐ下に溜まる脂肪。内臓脂肪が腹筋や背筋の内側に溜まるのに対して、こちらは筋肉の外側にある。
「皮下脂肪は指でつまめますが、内臓脂肪はつまむことができません。内臓脂肪は溜まりすぎるとお腹がぽっこり前に出る、皮下脂肪は腰から太ももにかけて溜まりやすいという特徴があります。さらに、皮下脂肪は溜まっても健康に害はありませんが、過剰な内臓脂肪は生活習慣病を引き起こします」
Q3. コロナ禍の生活と関係する?
A. 自粛前も自粛後も内臓脂肪増加のリスクあり。
コロナ禍のリモートワーク生活で運動不足になると、エネルギー消費量は減り、内臓脂肪が溜まりやすくなる。自粛解除後もまた内臓脂肪リスクが。
「会食や外食を楽しむ機会が増えることで“自粛解除太り”に陥る人もいます。久しぶりに会う友人とたくさん話そうとして食べ物を噛むことがおろそかになり、早食いになる傾向があるからです。早食いで短時間に大量の食べ物を胃腸に送り込むと、食後の血糖値が急上昇し、内臓脂肪が溜まる原因に」
Q4. 体重を落とせば一緒に落ちる?
A. 筋肉の量が減ってしまうとかえって危険。
運動をせずに体重を落とすと筋肉が減る。筋肉は多くのエネルギーを消費する組織なので、これは大いに問題。
「呼吸や心臓を動かすといった生きるために最低限必要なエネルギーのことを基礎代謝といいますが、このうちの3~4割は筋肉で消費されています。筋肉はじっとしていても常に収縮し、エネルギーを熱として放出しているからです。筋肉が少ないと、余ったエネルギーは内臓脂肪として蓄積されてしまいます」
Q5. 年齢によって増えたりするの?
A. 年齢は関係アリ。ただ近年は、若い女性にも増加中。
女性ホルモンのエストロゲンの働きのひとつは、妊娠・出産に関わる骨盤内の臓器を守るため、腰まわりに皮下脂肪を溜めること。
「このため、若い女性には内臓脂肪が溜まりにくいのです。50代前後で閉経すると女性ホルモンの働きが低下し、それ以前の2倍の速さで内臓脂肪が溜まるといわれています。ただ、最近は若い女性でもホルモンバランスの乱れなどが原因で、皮下脂肪ではなく内臓脂肪が溜まりやすいという傾向も見られます」
Q6. 糖質と脂質、どっちが影響する?
A. 糖質を一気に摂ると内臓脂肪まっしぐら。
内臓脂肪として蓄積されやすいのは糖質。理由は糖質を一気に摂ると血糖値が急上昇するから。
「血糖値が上がると、本来はインスリンというホルモンが糖質を全身に運んで血糖値を下げます。ところが、血糖値が急に上がると、エネルギーとして使い切れなかった糖質は中性脂肪に合成され内臓脂肪に蓄えられます。とくに吸収スピードの速い人工甘味料、果糖ブドウ糖液糖には要注意。皮下脂肪が溜まる間もなく内臓脂肪を溜め込む原因のひとつです」
Q7. 女性と男性で脂肪のつき方は違うの?
A. 違います。女性は新たに“内臓脂肪型”化のリスクに注意。
一般的に内臓脂肪は男性につきやすく、皮下脂肪は女性につきやすいといわれているけれど…。
「前に述べたように女性はエストロゲンの働きで内臓脂肪より皮下脂肪を蓄積しやすいことは確か。中年以降の男性が高血圧や糖尿病など、生活習慣病のリスクが高くなるのは女性に比べて内臓脂肪が溜まりやすいため。ただし最近では、ストレスによる女性ホルモンの乱れや吸収の速い糖質の摂りすぎなどによって、女性にも内臓脂肪型肥満は増えています」
Q8. 内臓脂肪と皮下脂肪、落としやすいのは?
A. 生活を改善すれば、即落ちるのは内臓脂肪。
内臓脂肪は食べすぎや運動不足によって、瞬く間に溜まる。ただ、溜まるのも早い一方、減りやすいことも分かっているという。
「内臓脂肪は皮下脂肪に比べて反応性が高いといわれているからです。また、溜まる場所の違いもあります。皮下脂肪のまわりには血管がほとんどありませんが、小腸の腸間膜には毛細血管が多く存在しています。食生活の見直しや運動で内臓脂肪が分解されると、血管を介し、即エネルギーとして利用されると考えられます」
栗原 毅さん 栗原クリニック東京・日本橋院長。東京女子医科大学教授、慶應義塾大学特任教授を経て現職に。『眠れなくなるほど面白い 図解 内臓脂肪の話』(日本文芸社)など監修書多数。
※『anan』2022年1月26日号より。イラスト・ユア 取材、文・石飛カノ
(by anan編集部)