ラッパー界のレジェンドである。黒サングラスにスキンヘッドである。
ゆえに見た目はこわもてだが、実はお茶目でシャイな文化系男子な面があることを、宇多丸さんのラジオ番組のファンならよく知っているだろう。この日のインタビューでも、映画評論のコーナーで聞く通りの軽妙なトークが炸裂。
――『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』、刊行おめでとうございます。マンガ誌に連載されていたこのコラム、悩みを映画で解消しようという試みが面白いです。ただ、相談内容がかなり異色ですよね。しょっぱなが<カツラを外すタイミングがわかりません!>ですよ? けれど、そんな変化球にも『グッドフェローズ』や『裸のキッス』、「スーパーマン」シリーズなどササッとオススメ映画を挙げ、打ち返す宇多丸さんの情報量がすごいです。
宇多丸:ハゲの相談は、自分が他人よりちょっと敏感だからでしょうかねえ。それに、どんな質問にも答えているんじゃなくて、答えられる質問を選んでいるんですよ。案外そのトリックは、読者の方に気づかれていないみたいです(笑)。
――この本のベースになっているのは、ご自身がパーソナリティを務める『ウィークエンド・シャッフル』の名物コーナー「ムービーウォッチメン」ですよね。「ザ・シネマハスラー」というコーナー名だった時代から数えると、もう丸8年続いていることになります。
宇多丸:2008年からだから、それくらいになりますか。
――あれ、その週に公開されている映画のタイトルが入ったガチャガチャを引いて、当たった作品を観て翌週に評論するというシステムですよね。当たった映画が不本意なら自腹で1万円払って引き直すこともできるわけですが、1万円って……痛くないですか。
宇多丸:めちゃめちゃ痛いですよ! しかも、引き直しても往々にしてまた「いちばん観たいやつじゃない作品」が出てくるんです。引きが強いのか弱いのか…。カプセルの比率は多少スタッフが操作していて、今週は『スター・ウォーズ』をどうしても当てたいなというようなときには、多めに入れてくれているらしいんだけど、僕は結構な確率でスタッフが「これ1個しか入れてないタイトルなのに」というのを引いちゃうんです。もっとも、好きなものばかり観ていたときより、こういう機会でもなければ観てなかったなという作品と出合えるいまのほうが、映画体験としては豊かですね。おかげさまで、好きなものだけ観ていた「映画が趣味の人」から一歩抜けて、どんな作品も面白いと感じることができる、本当の意味での「映画ファン」になれた気がします。
昔は、いまみたいに効率よくネットで情報を拾ったりもできない分、思ってもみなかった映画体験ができたんですよね。名作って、映画を人に喩えると、みんながみんな「いいよね」と太鼓判を押す作品。だけどそう呼ばれるものにしか興味がないのは、「立派な人とだけ知り合いたい」というのと似ていると思うんです。僕は映画と、「いいところばかりじゃないけど結局あいつとは友達でさ」というような親しい関係でいたい。みんなに嫌われているけれど、どうしようもなくダサいけれど、「あれ、わざとなの! 僕だけは、コイツのいいところをわかっているから!」と肩入れしたくなるのが友達ってものでしょ?