そもそも“ありがとう”は、仏教の言葉、と僧侶の井上広法さん。
「人として生まれることがいかに“有り難い”ことかと説く、仏教の経典が始まりとされています。つまり“ありがとう”とは、あり得ないほど嬉しい気持ちと感謝を伝える言葉。言われたほうはもちろん、口にする本人にとっても、喜びを噛みしめ幸福感を高める言葉なのです」
感謝することは脳にも利点がある、と医学博士の加藤俊徳さん。
「感謝は、感情、思考、記憶、聴覚、運動などあらゆる脳の機能を高めます。事実、感謝や喜びなどポジティブな感情を多く抱く人の脳と、ネガティブになりがちな人の脳を画像診断で比較すると、ポジティブな人の脳は、より成長しやすい状態であるといえます」
「当たり前」のフィルターをはずす
「ありがとう」の語源となる“有り難い”の反対は、“当たり前”。何事も当然のことと受け取ってしまうと、感謝の気持ちは芽生えない。
「毎朝同じ時間に通勤できるのも、考えてみれば電車を時間通り運転する運転士さんや、複雑なダイヤを組む職員さんのおかげ。“当たり前”と捉えるフィルターをはずせば、世の中のあらゆることに感謝できるようになるのです」(井上さん)
「感謝すると、視覚や聴覚など脳の五感部分が発達し、情報収集能力が向上します。すると場の空気など、目に見えにくい情報も捉えることがうまくなる。空気が読めない人間にならないためにも、時には情報のアンテナを張り巡らし、感謝のタネを探してみましょう」(加藤さん)
以下では、具体的な方法をご紹介します。
朝、いつもより1時間早く家を出る
「毎日同じことの繰り返しだと、脳は刺激に慣れて情報をキャッチしにくくなります。そうならないためにも、たまには生活リズムを変えてみましょう。例えば朝、いつもより1時間早く家を出てみる。するといつもと景色が変わって、木々の色づきや空の色など自然の変化に気がつけます。朝早くから一生懸命働いている人を見かければ、感謝の心が生まれてくるかもしれません」(加藤さん)
あえて不便な旅行をする
「私はよくインドへ行きますが、むこうの安価なゲストハウスでは、シャワーからお湯が出ないなんて日常茶飯事。帰国すると、蛇口をひねればお湯が出ることに無上のありがたさを感じます。優雅なリゾートもよいですが、たまには鄙びたところへ旅行し、あえて不便な環境に身を置くのもよいでしょう。当たり前のフィルターがはずれ、あらゆることに感謝の念が湧いてきます」(井上さん)