藝大は変人だらけ? 二宮敦人の『最後の秘境』が面白すぎ!
二宮敦人さんの『最後の秘境 東京藝大』は、ご自身にとって初めてのノンフィクション。書こうと思ったのは、現役藝大生である妻の行動がとにかく面白いと感じたことに端を発するらしい。
「本にも書きましたが、妻は、一本の巨木から枕をもう二回り大きくしたくらいの木彫りの陸亀をノミと木槌で彫り出すし、深夜に半紙を体中に貼り付けてギプスのように糊で固めているし。そんな妻を案内役にして藝大生たちを調べ始めたら、好奇心が焚きつけられっぱなしに」
取材したのは音校、美校合わせて40人ほど。インタビューだけで延べ100時間を優に超える。学生たちの出演するコンサートや出品したギャラリーに足を運んだ時間や労力も膨大だ。約2年を費やし、全学科を制覇した、力業の成果が本書。
藝大生たちの瞠目に値する活動を一部挙げてみる。150年前の絡からく繰り人形再現に図面作りから挑戦。「国際口笛大会」の成人男性部門のグランドチャンピオンも。三味線で伝統曲からボカロとのコラボまでライブで披露するシャミセニストもいる。彼らの芸術への情熱と探究心が、ユーモアを交えつつ活写されていく。
「もの作りをしていると必ずぶち当たる『いまのトレンドに歩み寄るべきか、自分のやりたいものを貫いて突っぱねるべきか』という悩みには、僕も共感して、インタビュー中にずいぶん盛り上がりました」
実は取材開始時には、小説にするかルポにするかは決めていなかったそうだが、調べるほどに、
「藝大生たちの言葉や行動をありのままに描いた方が、彼らの魅力が伝わる気がしたんです」
多様な個性をまとめて芸術のワンダーランドを作っている東京藝大の懐の深さにも圧倒される。
「それが藝大の面白さでもあると同時に、いろんな人がいるから面白いんだという全人類への肯定感とつながっている気がします。実際、やりたいことをやっていれば幸せ、という自然体の人が多くて、その真摯な姿勢に刺激されました。自分もがんばろうと思えるような読み物になっていたらうれしいです」
ちなみに二宮家では現在、件の陸亀がテーブル下で土台兼足置きになっていて、妻の卒業制作のためベランダが粘土で土砂崩れ状態だとか。