『シブヤから遠く離れて』は、’04年に劇作家の岩松了さんが演出家の故・蜷川幸雄さんからの依頼を受けて書き下ろし、小泉今日子さんと嵐の二宮和也さんが主演したことで話題になった作品だ。
「いったいどこまでが現実で、どこまでが夢なのか、もしかしたら全部嘘なのかもしれないとか、台本では語られないことがたくさんあるんです。たまに舞台や映画で、置いてけぼりにしないでよって思うものもあるけど、これはその置いてけぼりにされる感じもいいなって思います」
渋谷にある廃墟を訪れたナオヤが、そこで元娼婦の女性マリー(小泉)と出会ったことから展開される風変わりなラブストーリー。
「稽古場で見ていると、今日子さんはどのセリフを吐いても似合うんですよね。当時岩松さんが今日子さんに当てて書いた台本だからでしょうけど、言葉とご本人の持っている雰囲気がぴったりで。それに比べると、僕はナオヤに違和感がある。ただ、岩松さんに言葉で説明してもらうより、わからないままにとりあえず演(や)ってみて進めていく作業が楽しくて。岩松さんが観たいと思うナオヤにするのが大前提だし、ナオヤに見えるように舞台上にいたいとは思うけど、僕自身は違和感を持ったまま演じるのも面白いんじゃないかなって」
村上さんは“わからなさ”を恐れない。むしろ楽しんでいるようだ。
「自分の役とか人間関係を突き詰めて理解するのは、自分がやるべきことだと思うんです。映画の世界でも、僕みたいなガキに“これをこうしたいと思ってて”なんて説明してくれる監督は今まで少なかったので、わからないなか探っていくのは当たり前だったんですよね。人間にとって“わかる”ってことがエンターテインメントに繋がっているとは思うんです。わかるから共感できて、泣けるし笑える。でも例えば、ジム・ジャームッシュの映画はわからないけど、すごいなと思うし、好きです。頭では理解できなくても面白いと思うものは確実にあって、僕はそういうものに俄然惹かれるんですよね。もちろん、ハリウッド大作も好きなんですけどね(笑)」
舞台に求めているのは、かつて親に連れられて観たいくつかの舞台で受けたような圧倒される何か。
「数をたくさん観ているわけじゃないんです。それでも、唾がかかるくらいの距離で観た唐組の紅テントの熱量だったり、ナイロン100℃に出てる大倉孝二さんの面白さだったり、身近な先輩が出ていた舞台の衝撃だったり…。いままで何度か圧倒されてきた記憶があるから、自分が本当にやれんのか?って自問自答しながらも、そこに憧れるし、目指したいって思うんですよね」
むらかみ・にじろう1997年生まれ。'14年に映画『2つ目の窓』の主演でデビュー。'15年『書を捨てよ町へ出よう』で舞台初出演。来年には舞台『エレクトラ』に出演予定。