“勤め人あるある”が満載!? 一介の社員が味わう悲喜こもごもを描く“勤め人小説”

2024.3.5
SNSで社長の投稿が大炎上。社内の経営陣からは、問題となったワード〈スマイルコンプライアンス〉をポジティブに塗り替えてしまおうというプロジェクトが立ち上がる。白羽の矢が立ったのは、広告宣伝部の中堅社員・多治見勇吉。勇吉は「スマイルコンプライアンス準備室」の統括リーダーを拝命し、実体もわからないその言葉を〈スマコン行動規範〉として社内外に発表しなくてはいけなくなる。安藤祐介さんの『仕事のためには生きてない』は、一介の社員が味わう悲喜こもごもと、勇吉のモットーたる〈ロックな生き方〉との板挟みを描いた面白長編。

笑って泣けて明るい気持ちになる。“勤め人あるある”の応援歌小説。

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「僕はいまの職場で落ち着くまで、20代で5回転職しました。ホントにちっちゃい職場から大きい職場までいろいろと経験したので、その勤め人生活で溜めたあるあるを全部ぶつけてみるつもりで書きました。コンプライアンスに関しては、企業の危機管理に詳しい國廣正弁護士の本などを大いに参考にしました」

何も決まらない会議、ころころ変わる上司の意見に振り回されるタスク、否定ありきで突き返される書類の手直し等々、勇吉に降ってくるのは紛れもなくデヴィッド・グレーバーが言うところの「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」で、本書の裏テーマでもある。勇吉は、学生時代から続けている4人編成のロックバンドがあり、かなりよいワークライフバランスを続けてきたのに、それすら脅かされるに至り、あらためて、働くこと、生きることの意味を問い直していく。

「作家として15年目になるのですが、これまで書いてきた主人公たちってほとんどがダメ社員。でも自分の周囲を見ても、勇吉と同じ世代の30代半ばってすごく優秀な人が多い印象なんです。デジタルネイティブでコミュ力も高くて。ただ、できるからこそ、そこに居続ける意味が見えなくなるかもしれない。逆に勇吉は、とんでもない事態に巻き込まれたから考えるきっかけになったのかなと。どこに着地させようかはほとんど考えていなかったので、僕自身が成り行きを見守っていました(笑)」

勇吉をサポートしてくれるチームの存在も、本書のいいスパイス。

「本作はお仕事小説ではなくて、あえて〈勤め人小説〉と名付けたいです。読んでいただき、タイトルに首肯してもらえたらうれしいですね」

『仕事のためには生きてない』 勇吉のチームメイトは、再雇用枠の60代・沼尻、出世街道を走る同期のヤマキョー、20代の有能な部下・都築と相良などみな個性派揃い。KADOKAWA 1980円

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あんどう・ゆうすけ 作家。1977年、福岡県生まれ。2007年、『被取締役(とりしまられやく)新入社員』で、TBS・講談社第1回ドラマ原作大賞を受賞。『本のエンドロール』ほか著書多数。

※『anan』2024年3月6日号より。写真・土佐麻理子(安藤さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)