別々の場所でコロナ禍を過ごす3人の男女…柴崎友香が描く、2年間の日常と心情の変化

2024.1.17
東京や滋賀といった別々の場所でコロナ禍を過ごす3人の2年間。柴崎友香さんの新作『続きと始まり』は、2022年から’23年にかけて雑誌に連載した長編小説だ。

別々の場所であの時期を過ごす、3人の男女の日常と、心情の変化。

Entame

「自分を含め世界中が同時に影響を受けた出来事なので、その状況自体を書こうと思いました。人によって受けた影響は違うので、住む場所も仕事も家族環境も違う3人の視点を選びました。自分が書けるのは世界の一部分だけだけど、そこから何をどう想像していけるかを考えたかった。連載当初は、2年経てば落ち着くと思っていましたがそうはならなかったので、書いているうちに、小説自体が影響を受けて、書くものも変わっていきました」

大阪出身で一時期は東京に住み、今は結婚して滋賀県で暮らす30代の優子。東京で妻と幼い子供を育てているものの勤務先の飲食店が休業状態の30代の圭太郎。フリーの写真家の40代のれい。彼らの日常が交互に2か月おきに語られていく。

「3人の人生で何歳の時に何があったか一覧表にして考えていきました。コロナ禍で今までとは違う状況になって、彼らもこれまでの経験や今の生活について考え直さざるを得なくなっていく」

緊急事態宣言などで、どういう影響を受けたのかはそれぞれだが、

「あの時期は、いろんなことが標準とされる家族を想定して決められていた。でも人の関係性や在り方は様々だし、家族であっても個々の事情は違う。それに家族というと、恋愛、結婚、出産の3つがセットになりすぎているしんどさもあるなと感じていて。愛し合って結婚しました、というだけではない家族も書きたかったです」

日々を過ごす中、過去の震災のことや個人的な苦い思い出も彼らの胸を去来していく。

「2011年に震災でいろんな問題が出てきた時、“震災があって問題が起こるのではなく、今まであった問題がこういう災害があると拡大するだけだ”という声があって、そうだなと思って。コロナ禍もそうだし、社会の出来事にしても個人的なことにしても、過去のいろんなことが今の自分に影響しているんですよね」

昔の出来事を振り返り、迷ったり新しい気づきを得たりしながら進む3人に、読者も励まされる。

「たとえば以前だったら、何かができなかった時に“本人の努力が足りなかったからだ”と個人の問題にされがちでしたが、今は社会の構造という個人の努力や選択とは別の影響があると捉え直されるようになりました。それは大きいと思います」

過去からの連続の中で、自分の今ここがあると実感させる本作。

「未来のことを考えた過去の人が作ったものの中で、今自分は生きている。自分の今の行動の先に、未来を生きる人がいる。世の中にあった過去の出来事を考えることは、未来を考えることなんだなと感じます」

柴崎友香『続きと始まり』 コロナ禍の2年間、別々の場所で暮らす3人の男女の日常を細やかに描き出す。ポーランドの詩人シンボルスカの詩が引用されるのも印象的。集英社 1980円

20

しばさき・ともか 1999年に短編「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」でデビュー。2010年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、’14年「春の庭」で芥川賞受賞。ほか受賞作多数。

※『anan』2024年1月17日号より。写真・土佐麻理子(柴崎さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)