約400年前の戯曲ながら、今なお世界中で上演されているシェイクスピア作品。なぜこんなに愛され続けているのか。まさに今シェイクスピア劇に向き合う岡本健一さん、浦井健治さんの対談と、数々のシェイクスピア作品から魅力を探る。

2009年に新国立劇場で鵜山仁さん演出により一挙上演された『ヘンリー六世』三部作。三部を通すと上演時間全9時間にものぼる超大作に出演していた岡本健一さんと浦井健治さんのふたり。そこを皮切りに、『リチャード三世』『ヘンリー四世』『ヘンリー五世』『リチャード二世』など、鵜山演出のシェイクスピア作品の数々に共に出演してきた。そしてこのたび出演するのは、「シェイクスピア、ダークコメディ交互上演」と称しておこなわれる、『尺には尺を』と『終わりよければすべてよし』という2作の交互上演。

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岡本健一(以下、岡本):過去に鵜山さんともっと大変な企画をやったから、今回の交互上演くらいでは驚きはなかったな。

浦井健治(以下、浦井):確かに(笑)。ただ、これまでのような歴史劇じゃなく、シェイクスピア作品の中でも問題作といわれるダークコメディ。どっちもベッドトリック(相手を騙して違う人にベッドの相手をさせる罠)があったり、似たテイストの物語だから、ちょっと…というか結構混乱しますよね。

岡本:これまでは歴史劇で戦争ばかりしていたけれど、今回はそういう争いごとは全然ないし、女性を主体とした物語というのも初めてだし。今の時代に、自分たちがこの話をやることに意味がある気はしてて。

浦井:どちらの作品も、女性がすごく戦略家なんですよね。

岡本:女優陣と話してると、男性側と女性側で全然作品の捉え方が違っているのが興味深いなと。

――『尺には尺を』は、公爵の代理でウィーンの統治を任されたアンジェロが、婚姻前に男女の性交渉を禁じる姦淫罪でクローディオに死刑の判決を下したことから起こる物語。そして『終わりよければすべてよし』は、伯爵夫人の息子・バートラムに想いを寄せるが彼に結婚を拒否された侍女のヘレナが一計を案じる物語。

岡本:『尺には尺を』とか、登場人物がみんなひどい人たちだよね。

浦井:全員ひどいです。

岡本:公爵が人に統治を押し付けるとかありえないでしょ(笑)。ただ、法律っていうものをちゃんと見直さなきゃいけないのかもしれないというのは、この作品で思ったかな。あと、ひとりの女性との出会いで、こんなに人間の思想が変わるんだっていうことの面白さとか。

浦井:僕が演じるクローディオ側の目線で言うと、政治とか権力側の意向で人間の生死が決まるっていうのが不条理ですよね。クローディオのセリフに「生きようと願うことが死を招くことであり、死を求めることに生があると覚悟しています」っていうのがあるんですけど…。

岡本:えっ今の、もう一回言って。

浦井:(笑いながら復唱して)死に立ち向かうことが生きることに繋がるって、他のことにも置き換えられる気がするんです。大変なときこそ成長のチャンスというか。生きる意味を考えさせてくれる話だなと。もう片方もまた、生きることの意味をみんなで見つけていくような作品ですけど、こっちのほうがもっと体当たりな感じはありますよね。

岡本:『終わりよければすべてよし』で自分が演じる王は衰弱して死の間際なんだけれど、ひとりの女性との出会いで元気になる。一応、薬が効いたってことなんだけど、人間の生きようとするエネルギーがそうさせたと思ってるんだよね。まさに「終わりよければすべてよし」って思うことで、物事が前に向いていくことってある気がして。そう思ってもらえる作品にできたらいいなと。

――演出の鵜山さんをはじめ共演者も、これまでシェイクスピアシリーズを一緒に作ってきた面々ばかり。

岡本:10年以上、ほぼ同じカンパニーでやってきてるけど、それがすべて鵜山さんの頭の中から始まってるんだと思うとすごいよね。

浦井:今回ご一緒してあらためて感じたのは、それぞれの人に寄り添って、その人が理解しやすい言葉を選んで話してくれているんですよね。

岡本:人それぞれに説明の仕方が違って、俺には擬音ばっかり(笑)。

浦井:僕は『ヘンリー六世』三部作が初めてのシェイクスピアだったんですよね。それまでセリフ劇的なことをあまりやったことがない中、周りは劇団を背負ってこられたような方ばかりで、そのときは、稽古場で毎日自分の不甲斐なさばかりを実感させられる日々でした。

岡本:それ、全然楽しくないじゃん。

浦井:でもその心理状態が、そのときに演じた役とリンクできた部分はあったんです。鵜山さんからは、役と一緒に道を歩んでいるようなイメージでセリフを体感しながら言って、と言われていて。実際、役の血が体の中に流れているかのようにセリフを言っている諸先輩方と、何作品もご一緒させていただいて学んだことも大きいですし。

岡本:ここでご一緒している年配のみなさん、本当にすごいからね。シェイクスピアうんぬんていう次元じゃなく、セリフが話し言葉としてスッと入ってくる。それを見て自分もあそこに追いつこうってなるし、無言の教えがいっぱいあるからね。最初の頃、この人たちに役者として認められたい、認められるにはどうしたらいいだろうってすごく考えてた。俺としては、シェイクスピアだとか話がどうとかは置いといて、このすごい俳優さんたちが頑張っていて、それだけでも感動するから観に来たほうがいいよって思ってるくらい。

高尚な劇じゃないよということは言っておきたい。

――数々のシェイクスピア作品を経験してきたおふたりに、あらためてシェイクスピアの面白さを聞いた。

岡本:いつも言うんだけど、シェイクスピアの戯曲って劇場で演じるために書かれてるから、本を読んだだけじゃ面白くないんだよね。人の声を通してようやく面白さがわかる。

浦井:
僕もシェイクスピア劇に対して、セリフが難しいってイメージを持っていたんです。でも、実際にそれぞれのキャラクターを理解して聞くと、そんなこともなくて。

岡本:劇場で体感して、ようやくその魅力がわかるんだと思う。なんでこんな400年も前の作品を日本で上演するんだろうって思うけど、やってみると、今の自分たちとか今の日本の社会とかに通じるものが、そこに書かれていて、そこにちゃんとメッセージがあるんだよね。今回の舞台も、観に来たお客さんの中に、きっと似たような物語があるし、共鳴する登場人物があると思うし。

浦井:イギリスのストラトフォード=アポン=エイヴォン(シェイクスピアの故郷)に行ったときに、街にシェイクスピア作品の登場人物の銅像が立っていたんです。それを見て“人気キャラ”なんだなと思ったんです。人間の中身とか関係性をわかりやすく分類してキャラクターとして描いているから、誰もが自分や周りの人に置き換えて物語を身近に見られるのかなって。しかもそれが未来への教訓にもなる。

岡本:政治家こそ観たほうがいいよね。それこそ国のつくり方とか、国を統治する成功例も失敗例もたくさん描かれているから。

浦井:シェイクスピア劇っていうと高尚なイメージがありますけど、人間の普遍的なことを、国だったり恋愛だったりに置き換えて面白おかしく書いたものなのかなっていう気がしています。

岡本:それを高尚なものとしてやろうとすると、退屈な芝居になるんだよ(笑)。このカンパニーは、壮大なセリフをどうしたら自分たちの生きた言葉として生々しくしゃべるかってことを考えてる人ばかりだから。新国立劇場だから格式高い印象があるかもしれないけど、高尚な劇じゃないよってことは言っておきたいな。

シェイクスピア

人間の本質をついたセリフの数々が時代を超えて愛される。
16世紀後半から17世紀初頭に活躍したイギリス出身の劇作家で詩人。シェイクスピア作として現存する戯曲は全37作品にのぼる。歴史劇、悲劇、喜劇と、そのジャンルは多岐にわたり、現在に至るまで世界各地で上演されている。その多くは古くから残る説話や歴史文献が題材となっているが、物事の本質をついたセリフなどが時代を超えて評価されている。

シェイクスピア、ダークコメディ交互上演『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』
10月18日(水)~11月19日(日) 新国立劇場 中劇場 作/ウィリアム・シェイクスピア 翻訳/小田島雄志 演出/鵜山仁 出演/岡本健一、浦井健治、中嶋朋子、ソニン、立川三貴、吉村直、木下浩之、那須佐代子、勝部演之、小長谷勝彦、下総源太朗、清原達之、藤木久美子、川辺邦弘、亀田佳明、永田江里、内藤裕志、須藤瑞己、福士永大 S席8800円 A席6600円 B席3300円 2作品通し券(S席のみ)1万5800円 当日発売のZ席1650円のほか高齢者割引(65歳以上)、学生割引、ジュニア割引(小中学生)、障がい者割引などあり 新国立劇場ボックスオフィス TEL:03・5352・9999

岡本健一さん(写真右) 1969年5月21日生まれ、東京都出身。俳優として舞台で精力的に活動し、これまでに数々の演劇賞を受賞。また、音楽活動もおこなっており、所属するRockon Social Clubの2ndアルバムのリリースも控える。

浦井健治さん(写真左) 1981年8月6日生まれ、東京都出身。主にミュージカル、ストレートプレイで活躍。来年3月、ミュージカル『カム フロム アウェイ』が控える。発売中の3rdアルバム『VARIOUS』のタイトルを冠したライブDVDが10月18日発売。

※『anan』2023年10月4日号より。写真・小笠原真紀 構成、取材、文・望月リサ

(by anan編集部)

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