一家揃ってアーティストのセレブファミリーは少なくないけれど、両親どちらも時代のアイコンにして、自身もまた然りというケースは滅多にない。シャルロット・ゲンズブールは、そんな稀有な存在だ。父親は破天荒な才人セルジュ・ゲンズブール、母親はその彼のもとでフレンチロリータな魅力を開花させ、のちにエルメスのあの人気バッグ誕生のきっかけにもなったジェーン・バーキン。そんなふたりの娘として注目を集めて育ちながらも世間に翻弄されることなく、俳優としてのキャリアも幸せな家庭もしっかり築いてきたという意味においてもだ。

カメラを通して向き合う、伝説の母と娘。

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本作『ジェーンとシャルロット』は彼女の初監督作にして、母ジェーンを見つめたドキュメンタリー。といっても、そこは母と娘。いわゆるスターの素顔に迫る的なものとは一味違う。そもそもシャルロットにとって、本作はジェーンに会うための口実だったのだとか。異父姉ケイト・バリーの死を機にニューヨーク暮らしをはじめたことで、母との間にいい距離感が生まれたというシャルロットだが、ジェーンは彼女が10歳になる前にセルジュのもとを去っている。多感な時期を父のもとで過ごした娘と母には、おたがいに遠慮のような気遣いがあったのだ。つまりカメラを媒介とすることで、普段なら面と向かって聞けないことも聞ける。少女時代の自分をどう思っていたか。娘はずっと知りたかったことを尋ね、母も誠実に答える。でも、そうした単刀直入さはカメラを向けられる側にとっては恐ろしい。実際、この対話も含む日本での撮影後、ジェーンが本作のキャンセルを申し出る事態もあったそう。

けれども、シャルロットは決してジェーンを問い詰めたりしない。彼女の人となりそのままの穏やかさで問いかけ、見つめ続けるのだ。亡きケイトへの想いを尋ねることができるのも、ジェーンが抱え続ける喪失感を話すことができるのも、同じ哀しみを抱える実の娘だからこそ。ファンの聖地であるヴェルヌイユ通りの「セルジュ・ゲンズブールの家」をふたりで訪ねたり、コンサートで日本やニューヨークを飛び回っていたり、彼女たちが特別な存在であることを思い出させるシーンはもちろんたくさんある。でも、そんなふたりの対話を通して浮かび上がるのは、ものすごく普遍的な母と娘の想い。シャルロットがジェーンに抱く想いの数々には、セレブ育ちならぬ身でも自身の母への想いを重ねずにいられなくなる。公開目前にジェーンの訃報が届いたけれど、とりわけ、母への愛が深まるほどに増す、いつか必ず訪れる別れへの不安には激しく胸を揺さぶられたものだ。

それにしても、映像と空気感が素敵すぎる。いかにもドキュメンタリーなインタビューカットはなく、語り合うふたりを捉える映像も何気におしゃれ。なによりときめくのは、ブルターニュにあるジェーンの家。娘たちの子ども時代の思い出も詰まった海辺の家は、無造作に置かれた雑貨さえも絵になりつつ、居心地が良さそう。その暮らしぶりから伝わってくるジェーンの肩の力の抜けた生き方。そして、ずっと世間の注目を集める環境にありながらも、穏やかさと優しさを持つ女性に育ったシャルロットの強さ。そのどちらも素敵だなと、改めて思う。

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『ジェーンとシャルロット』 監督/シャルロット・ゲンズブール 出演/ジェーン・バーキン、シャルロット・ゲンズブール、ジョー・アタル 8月4日よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国順次公開。©2021 NOLITA CINEMA - DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms

※『anan』2023年8月9日号より。文・杉谷伸子

(by anan編集部)

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