坂本真綾「いろんなことを経験した上で、あらためて歌へのエネルギーの源を内側から感じている」

2023.6.12
アルバム『記憶の図書館』をリリースした坂本真綾さん。前作『今日だけの音楽』からは約3年半ぶり。コロナ禍や自身の出産など公私ともに大きな変化を経ての制作となった。

歌へのエネルギーの源を、内側から感じて。

Entame

「この3年半の間に世の中も大きく変わったし、私の生活環境も大きく変わりました。それはもちろん音楽活動にも影響があり、コロナ禍では明るく優しい音楽を皆さんにお届けしたいという気持ちがありました。今回のアルバム制作でもその延長線上にあるものを作りたかったんですけど、いざ制作が始まってみると一曲一曲の中で自問自答するような重みのあるものが多くなって。聴いてくれる人に、未来はそんなに悪くないよねって言いたい気持ちと同時に、抑圧されていたフラストレーションを吐露したい気持ちもあったみたいで。自分でもちょっと意外でした」

そんな今作は“記憶”というキーワードをもとにオリジナルストーリーを書き下ろし、多彩なクリエイターたちと共有しながら作っていった。

「私も40歳を過ぎて、人生の折り返し地点なのかなと思う年齢に差し掛かりました。忘れてしまった記憶もたくさんあるし、不思議なほど忘れられない鮮明な記憶もたくさんあります。許容量の決まった本棚のような場所に、私はこの先どんな記憶を残していくのかな、なんて考えながら作ったアルバムです」

荒内佑さん(cero)が作・編曲を手掛けた「ないものねだり」や、竹内アンナさんが作曲を手掛けた「discord」、比喩根さん(chilldspot)が作曲を手掛けた「Anything you wanna be」など、初コラボとなったアーティストも多数。

「打ち合わせで、まずは目の前で物語を読んでいただき、自由な発想で曲を作っていただきました。皆さんにヒントだけ渡して、とりあえず一緒にゴールまで行ってみる。そんな宝探し的な楽しみが制作の醍醐味。目の前でクリエイティブなスイッチが入るような瞬間が垣間見られて、面白かったです」

他にも作詞を坂本慎太郎さん、作・編曲を冨田恵一さんというレアなタッグによる「鏡の中で」。岸田繁さん(くるり)の作曲による「菫」など、じっくり聴きたい味わい深い曲が並ぶ。記憶の箱を開けるような曲たちを歌で表現しながら、彼女自身も制作を通して蘇った記憶があるようだ。

「まだ20歳くらいの比喩根さんとご一緒して、彼女が書く歌詞に大人っぽくてドライなんだけど隠しきれない世の中や自分への不満みたいなものを感じて、懐かしいなって。私が20歳くらいの頃もそうだったし、今の私自身もちょうどそんな感じなのかも(笑)。いろんなことを経験して一周した上で、あらためて根本的に自分を突き動かす動機や、歌うことへのエネルギーの源を内側から感じています。誰かに向けてというより自分の考えを反芻しているような歌詞が多いのも、どこかあの頃に似ていて。自分でも無意識な想いが歌詞に出てるんだなって気づきました」

現在は今作を引っさげての全国ライブツアーも開催中。

「アルバムもそうですが、聴いた人が自分自身の『記憶の図書館』を探るような時間になるんじゃないかな。客席で、ご自身のいろんな記憶に浸っていただけたらと思います」

Entame

11th Album『記憶の図書館』。自身が書き下ろした物語をもとに多彩なクリエイターたちが参加したコンセプチュアルな全12曲。【初回限定盤(CD+BD)】¥4,620 【通常盤(CD)】¥3,300(フライングドッグ)

さかもと・まあや 1996年にシングル『約束はいらない』でデビュー。歌手、声優、俳優、エッセイスト、ラジオパーソナリティなど多方面で活躍。その瑞々しい歌声は国内外のファンを魅了する。

ブラウス¥38,500 パンツ¥34,100(共にmuller of yoshiokubo TEL:03・3794・4037) イヤーカフ、右耳¥20,570 左耳¥12,100(共にRACKETS)http://fabliau.jp/

※『anan』2023年6月14日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) スタイリスト・岩渕真希 ヘア&メイク・ナライユミ 取材、文・上野三樹

(by anan編集部)