役所広司「若い才能を育てることが、将来的に日本映画が世界へ羽ばたくことの近道」

2023.4.16
品格と色気、にじむユーモアで役を体現。日本映画の文化を担い、継承する立役者、役所広司さんが日本映画への深い愛情を惜しみなく語ってくれた。

日本映画の継続のために、若い才能の育成を。

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長崎県で生まれ、上京後は区役所勤めの後に俳優養成所に入り、’80年に俳優デビュー。以来43年間、テレビ、舞台、映画とさまざまなフィールドで活躍してきた。その中で、最も思い入れがあるのは映画だと語る。

「テレビドラマは、作品がお茶の間に入り込んでいくものなので、やはりいろいろな制約がある。一方映画は、お客さんがお金を払って映画館に足を運んで観に来てくれるものなので、冒険やチャレンジができる。そういう意味で僕は、映画を中心にずっとやってきた。映画界には本当に良くしてもらったと思っていますし、だからこそ、少しでも役に立てるのであれば、日本映画の力になりたいんです」

と言うのも、役所さんの目に映る今の日本映画界の現場は、とても恵まれた環境とはいえないからだ。

「働く時間、ギャランティ、制作費…、物理的な意味では決して豊かな場所ではありません。それに加え、なにより僕が心配をしているのは、映画を作る人材が育っていないということです。昭和の時代、俳優を含めスタッフのほとんどが映画会社の社員だった時代は、人を育てる余裕があったと思うのですが、今はほとんどの人材がフリーです。コロナ禍でパンデミックのようなことが起こると制作が止まるので、みんな仕事がなくなってしまい、映画業界を夢見ていた人も辞めざるを得なくなる。才能がある若い人がそういった理由で映画界を去っていくなんてことはあってはならないし、本来はそういう才能をきちんと育てることが、将来的に日本映画が世界へ羽ばたくことの近道だと思う。日本映画を持続可能なものにするためには、若い人を育てることが一番大事なんですよ」

利潤の追求が必須である現代の消費社会においては、映画とて経済と無関係ではいられない。確実に興行収入が望める作品にする、あるいはお金や時間をあまりかけずに製作するといった流れは、当然でもある。しかし、

「確かに、作品を作り続けるためには映画界が潤わなきゃいけないのは分かります。でも一方で映画は、さまざまな種類の作品があるからこそ文化なんです。日本の映画界には、文芸作品は当たらないとか、時代劇はお金がかかるわりにヒットしないといったジンクスがあるんですが、そのせいか、年々そういった作品が減っている気がします。でも撮り続けていかないと時代劇を作れるスタッフはいなくなるし、演じられる俳優も育たない。目の前の利益だけでなく、映画界の未来を考えられるプロデューサーに出てきてほしいですね。『ちょっとチャレンジングな企画だけど、これやろうよ』と言える人。そこに日本映画の今後がかかっているんじゃないかな」

映画は、監督や俳優、脚本家だけでなく、照明、衣装、美術など、さまざまなスタッフの職人芸が集まって初めて一本の作品になる、と役所さん。

「かつての僕は、自分が出演した映画を観たときに、セリフがとても聞き取りやすかったので、自分はセリフを言うのがうまいと思っていたんです。でも実は、セリフの聞き取りづらい部分の出力を上げて調整してくれたり、テストのときの音声と一部だけ入れ替えるといった録音部の方の働きによって、聞きやすくなっているんですよ。それを知ったとき、自分の力だけだと思っていたことを恥じたと同時に、映画によって与えられる感動というのは、本当にたくさんの職人さんの技によって作られているんだということを、改めて実感しました」

最後に、エンターテインメントに関わる俳優としての夢を聞いてみた。

「僕の夢は、自分が死んだ後、50年、100年後にも上映され、なおかつ愛される作品に参加すること。映画は、役者として唯一残せる財産。そういう日本映画に出たいと今までも思ってきましたし、これからもずっと願い続けていくんだと思います」

やくしょ・こうじ 1956年生まれ、長崎県出身。代表作は多数あり、最近では『すばらしき世界』(’21)でシカゴ国際映画祭最優秀演技賞などを受賞。成島監督作は『ファミリア』(’22)などに続き4作目の出演。

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『銀河鉄道の父』 唯一無二の世界観で、今では世界中から愛されている作家の宮沢賢治。しかし実は賢治は生前、家業を継ぐのを拒否し、謎の商売を始めようとしたり、家出をして宗教にハマったりと、両親を振り回すダメ息子だった…!! 厳しくも息子を優しく愛した父親・政次郎の視点で描かれる、宮沢家の愛ある家族の物語。出演は役所広司、菅田将暉、森七菜ほか。監督は成島出、脚本は坂口理子。5月5日より全国公開。

※『anan』2023年4月19日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・安野ともこ ヘア&メイク・勇見勝彦(THYMON Inc.)

(by anan編集部)