小栗旬主演の『ジョン王』上演! 吉田鋼太郎「毎日小栗に会えるのがとにかくうれしい」

2022.12.16
演出家・蜷川幸雄さんのもとでシェイクスピア全37戯曲の完全上演を目指し、蜷川さん没後は俳優・吉田鋼太郎さんが引き継いだ「彩の国シェイクスピア・シリーズ」。その第36弾『ジョン王』が2020年に小栗旬さん主演で上演される予定だったものの、緊急事態宣言の影響であえなく中止に。しかし「この作品を上演しないことにはシリーズは終われない」という吉田さんの強い想いから上演が決定。ついに12月26日から開幕する。

吉田鋼太郎×小栗 旬

oguri1

吉田鋼太郎:そもそもこのシリーズは、世界的演出家である蜷川さんが、彩の国さいたま芸術劇場ができた時に、お客さんを呼べる楽しい企画をやろう、シェイクスピアがいいんじゃないか? と始めたもの。シェイクスピアはお芝居好きの人にはなじみがあるけれど、一般の方には「難しいんじゃないか?」と敬遠されがちで。

小栗旬:僕も最初に本として『ジョン王』を読んだ時、正直「つまんねえ! 本当にこれをやるの?」って思いましたもん。

吉田:だよね(笑)。でも不思議と役者が演じると、ワクワクドキドキして、笑える、泣ける、いい芝居になるんだよね。

小栗:シェイクスピア作品は、読むのと演じるのとで印象がガラッと変わる。とくに『ジョン王』は時代にリンクしているところが多々あります。なかにはまだ理解が追いつかないところもあるけど…。

吉田:たしかに『ジョン王』は読むだけでは絵が浮かびづらい作品だと思う。言葉も難しいし、16世紀のイギリス人が書いた、日本とはまったく異なる時代の文化や風習の中での話。でも小栗くんが言った通り、役者が演じると「こんなことができるんだ」と面白さが湧き上がってくる。僕が最初にシェイクスピアに感じた驚きは、まさにそこなんだよね。

小栗:『ジョン王』は、ほぼ全編戦争をしている話ですが、今年ロシアのウクライナ侵攻が起きたことで、僕らにとっても戦争が絵空事ではなく、身近になってきた。その中で、戦争が生む悲しさや人の想いが、この舞台からはストレートに伝わるんじゃないかなと思います。

吉田:僕はね、本当に久しぶりに小栗と舞台がやれるってことで、すごく楽しみだったんだよ。稽古場でどんな面白い芝居をしてくれるんだろう? という期待以前に、毎日会えるのがとにかくうれしい! 演劇を作る現場で毎日小栗の顔が見られる。それがうれしいんです。

小栗:ハハハ。

吉田:今は立ち稽古が始まったばかりなので、小栗はまだ本領を発揮していない。でも、その片鱗が時々垣間見えるんだよ。やっぱりこの人はまっすぐな人だなと。

小栗:そうですか?

吉田:そう。小栗は演劇に対してもそう、人生に対してもそうだし、言ってみれば自分に対して正直なんだと思う。

小栗:えーーーー。

吉田:最初に一緒に芝居したのが、蜷川さん演出の『お気に召すまま』だったんだけど、その頃小栗は21歳ぐらいだったよね。初めて対峙した時「世の中にこんな純粋な青年がいるんだ。自分はなんでこんなに汚れてしまったんだろう」と、本当に涙が出たんだよ。

小栗:マジですか?

吉田:でもね、今もその頃の小栗が時々見えるよ。その一方で“大人になって世間の垢や汚さを身につけた小栗くん”も見たいんだよね。だからこの芝居で、その両方を引き出したいな。

小栗:ぜひ引き出してください(笑)。

吉田:それにしても大河ドラマの撮影が終わった途端、すぐにこの芝居の稽古が始まったけど、少しは息抜きできたの?

小栗:大河のクランクアップ後、この稽古が始まるまではゴルフに行くなどして息抜きができました。鋼太郎さんは息抜きしていますか?

吉田:ちょっと前までは、家で娘と遊んだり、お風呂入ったり、寝かしつけをするのが息抜きだったんだけど、1歳8か月はすごい! ものすごいエネルギーで家中を駆け回っているので、稽古中の今は息抜きにはなかなかならないかな。気分転換にはなるけどね(笑)。

小栗:それにしても舞台が久しぶりすぎて、最初の数日は蜷川さんとやっていた稽古場の雰囲気を感じながら、舞台で演じるってどんな感じだっけ? という思いでした。今日あたり(立ち稽古4日目)から何も考えずに動いていた舞台の感覚を思い出し、流した汗の気持ちよさがあったな、こういう稽古場だったなと。

吉田:シェイクスピアの作品は、パワーが必須。ト書きに「ここで人が泣く」とあるとしたら、それはどこまで悲しいのかを考え、ふだん生活の中で「ああ、悲しい」と思う100倍ぐらいの悲しさを俳優が演じてくれないと成立しない。想像の100倍の悲しみ、喜び、怒りが舞台の上で巻き起こる。そしてそれを作るのが、演出家の仕事だと思っています。

小栗:そこが読んでいた時と、演じる時の違いであり、面白さなんですよね。僕ら役者が作ろうとしている世界と、鋼太郎さんが目指す世界が、どういうふうに合致していくのか楽しみでもあります。鋼太郎さんが言うように、役者に熱量がないとシェイクスピアは面白くない。リアルに演じたら、お客さんが寝ちゃうんじゃないかと思う(笑)。12世紀という時代では、今と比べて人の命が軽い。頭が少しおかしくならないとそんな感覚になれないということが、僕ら俳優の熱量を通して伝わってこそ、お客さんに衝撃を与えられるんじゃないかと思います。

吉田:そもそもジョン王という人自体がヒーローでなく、イギリスの歴史上あまり評判のいい人物ではないからね。領地を奪われるわ、国民に重税を課して反発されるわ、とにかく評判が悪い。でも逆に捉えれば、嫌なものを嫌と言っちゃうような人間らしい人。そこに面白さがある。そして台本に書いてあるわけじゃないけど、その王のことを小栗が演じる私生児が好きになる展開がある。ジョン王が死んだことを私生児が嘆き悲しむシーンがあり、やはりジョン王のことが好きだったんじゃないかと推理できる。そう理解することで、この芝居がもっと面白くなるんじゃないかと思うんです。ダメな人が出てきて、その人を好いてくれる人がいる。この作品はそのふたりで回っていて、そこがとても興味深く、そこをキーにして毎日演出をしているつもり。

小栗:僕も私生児という役がどんどん面白くなっています。地主から突然王族になり、虐げられて生きてきたのに、無知なまま戦争に巻き込まれ、次第にその戦争が楽しくて仕方なくなっていく。今まで渇望していた“自分”という立ち位置も手に入れ、気がついたら自国であるイングランドを守ろう、最後までフランスに抗おうともがく。知らないところで和睦が結ばれようとしているのに、ジョン王に「我が軍はどうやっていけばいいのか」と相談するやりとりもあり、リチャード獅子心王の息子として血気みなぎる血筋も感じさせる。オールメール(出演者が全員男性)の面白さもありますよね。

吉田:猛烈な気性の3人の女性の役を男性にしたことによって激しい注文ができる。そこがメリットだね。

小栗:稽古場も部活みたいだし(笑)。

吉田:そうだね(笑)。そしてもうひとつ、これは私生児のGrowing up storyでもあるということ。一見ひねた印象に思われがちな私生児は、実はとてもまっすぐな男。私生児という立場を覆そうと強靭なパワーで「ひょっとして俺はこんなことができる?」と好奇心であらゆることをやり、時に壁にぶち当たり、いろいろ学んでいく。そのパワーを見るのが楽しみでもある。この芝居を観に来た人は、鎌倉殿の小栗くんじゃない、まったく違う小栗くんが観られます。そして小栗旬ってこんなにすごい役者なの? と思うはず。

小栗:この芝居には、エネルギーに満ち、大きな声に満ちた男たちの集団ショーみたいな面白さがあります。

吉田:いやいや、いつもと比べたらそうでもないんだよ。みんな、抑制を持った、いい大きな声を出している芝居だよ(笑)。

小栗:僕はほぼ叫び気味でセリフを言ってますよ(笑)。でも人間には底知れぬパワーがあると感じられるから、いろいろ悩み多き時代、元気が欲しい人にはとくに観に来てほしい作品です。

吉田:今まで日本での上演はかなり少なく、今後の上演も未定の作品。観逃したら損をする、幻の舞台になると思います。

全37戯曲の上演達成を目指したプロジェクト「彩の国シェイクスピア・シリーズ」とは?

oguri3

彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督・蜷川幸雄さんのもとで、シェイクスピア全37戯曲の完全上演を目指して1998年にスタートし、次々と話題作を発表。蜷川さんの没後、2017年12月に、シリーズ2代目芸術監督に吉田さんが就任して、『アテネのタイモン』(写真・右)を演出・主演で手掛け、その後完全上演を引き継いだ。吉田さんと小栗さんは、2006年にイギリスで上演した『タイタス・アンドロニカス』でも共演している(写真・左)。
左・第13弾『タイタス・アンドロニカス』(2006年の公演より) 右・第33弾『アテネのタイモン』(2017年の公演より)

『ジョン王』 イングランド王ジョンのもとへ、先王リチャード1世の私生児を名乗る男が現れ、時を同じく、フランス王が「王位を幼きアーサーに譲り、領地を引き渡せ」と要求。英仏の戦いと権力者の思惑が入り乱れて…。12月26日(月)~2023年1月22日(日) 東京・Bunkamuraシアターコクーン 2月17日(金)~24日(金) 埼玉・埼玉会館 大ホール 作/W・シェイクスピア 翻訳/松岡和子 上演台本・演出/吉田鋼太郎 出演/小栗旬、吉原光夫(東京公演のみ)、中村京蔵、玉置玲央、白石隼也、高橋努、植本純米、吉田鋼太郎ほか ホリプロチケットセンター TEL:03・3490・4949 https://horipro-stage.jp/stage/kingjohn2022/ 愛知、大阪公演あり。

おぐり・しゅん(写真・右) 1982年生まれ。TVドラマ、映画、舞台と活躍の幅は多岐にわたる。2022年NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の主人公・北条義時役が記憶に新しい。シェイクスピア・シリーズには16年ぶりの出演となる。
トップス¥41,800 パンツ¥41,800(共にJOHN SMEDLEY/Lea mills agency TEL:03・5784・1238) その他はスタイリスト私物ア・シリーズには16年ぶりの出演となる。

よしだ・こうたろう(写真・左) 1959年生まれ。大学在学中にシェイクスピア公演『十二夜』で初舞台。’97年に演出家・栗田芳宏と劇団AUNを旗揚げ。数多くのシェイクスピア作品に出演、演出も。2014年芸術選奨演劇部門文部科学大臣賞を受賞。
ブルゾン¥181,500(JOSEPH/オンワード樫山お客様相談室 TEL:03・5476・5811) メガネは本人私物 その他はスタイリスト私物

※『anan』2022年12月21日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) スタイリスト・臼井 崇(THYMON Inc./小栗さん) 尾関寛子(吉田さん) ヘア&メイク・みち子(SUNVALLEY/小栗さん) 吉田美幸(吉田さん) 取材、文・今井 恵

(by anan編集部)