世界に先駆け、技術開発に成功した事例も。注目のディープテック、日本の現状は?

2022.12.10
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ディープテック」です。

研究が広く知られ活用の道がより広がることを期待。

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「ディープテック(Deep Tech)」とは、「深いところに眠る技術」と、「世の中に深く根ざした問題を解決する技術」を意味する造語で、長年の研究をもとに、世界を変える可能性があるような影響を与える技術を指し、大変注目されています。

日本で研究されている技術だと、たとえば「ペロブスカイト太陽電池」。低価格でフィルム状にもできる新しい太陽電池です。また、慶應義塾大学で研究されている、力触覚を再現する技術の「リアルハプティクス」もその一つです。専用の手袋をはめて手を動かすと、遠く離れた場所にあるものに触れたときの硬さや感触をリアルに感じ取れるというものです。もともとは医療技術の開発から始まりました。脊髄に穴を開けるという手術をするとき、間違って神経に触れてしまうと医療ミスが起きてしまいます。リアルハプティクスの技術を使い、医師が離れた場所で治療を行うときに、医療機器の先端が患者さんの体内で骨に当たる感覚を手の中に実感できるようにしました。

離れた場所の触感を再現するのは難しいといわれており、2002年、日本は世界に先駆けて、ハプティクス伝送=力触覚伝送に成功したのです。

このような世界最先端の技術の開発を基礎研究から始め、実際に社会に実装されるまでには膨大な時間がかかります。その研究が何の役に立つのか、どういう形で成果が得られるのかが明確でないと、資金も集まらずに研究を続けることが難しくなるという問題が日本では起きています。すると有能な研究者も、より安心して研究ができ、正当な評価を得られるアメリカや中国など海外に流出していってしまいます。

慶應義塾大学ハプティクス研究センターのセンター長の大西公平さんは、自分たちの技術をさまざまな業界の人にも見せて、これによりどんなふうに社会を変えられるのか、知恵を集めてそれを研究にフィードバックさせたいとおっしゃっていました。

本来、イノベーションは、私たちの困りごとの解決に役立てることが期待できるものです。成功事例を広く発信し、日本の発展に活かしていくことができればいいなと思います。

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ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。

※『anan』2022年12月14日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)