一条ゆかりが松本零士から教わった、漫画家にとって一番大事なこととは?

2022.12.4
人生の先輩的女性をお招きし、お話を伺う「乙女談義」。11月のゲストは、数々の名作を描いてきた、漫画家の一条ゆかりさん。漫画家という仕事、また素晴らしい作品の裏にはどんな秘密があるのでしょうか? 第4回目をお届けします。
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漫画家にとって大事なのは、タフであること。

高校3年生のとき、雑誌『りぼん』の新人賞の授賞式で、私は東京へ。着いた日の夜、編集者さんが「牧美也子先生(漫画家)が修羅場で、今から行くけれど、行く?」と言うので、連れていってもらいました。牧先生の生原稿に感動していたところ、ご主人の松本零士さん(『銀河鉄道999』などの漫画家)が話し相手になってくださって。今思うととんでもなく贅沢な時間よね(笑)。そのとき松本さんが私に、「心臓は丈夫? 漫画家にとって一番大事なのは心臓だよ」とおっしゃった。おそらく、タフじゃないとやっていけないということを伝えてくださったんでしょう。

実際それを実感したのは、本格的に上京した日。大雪で電車もタクシーもいなくて、仕方ないので東京駅から集英社まで雪の中歩いたの。そしたらなんとその日は日曜日で、集英社はお休みよ(笑)。さらに仕方がないから御茶ノ水のアパートまで歩いて、部屋に入ってさめざめ泣きました。あれは辛かった(笑)。

魅力的なキャラの誕生は、人間観察の賜物。

よく“役が乗り移る”と言われる役者さんがいますが、私が漫画を描く感覚はそれに近いかもしれません。サブキャラも含めて、その人になりきって描いていく。なので、人の行動原理が知りたくて仕方がないんです。ちなみに漫画は、主人公だけでは成立しません。いかにサブキャラにリアリティがあるかが重要。そこに厚みを持たせるためには、いろんな人間を知る必要があります。私は“私を不愉快にする人”に特に興味があって。一般的には、嫌いな人に出会ったら離れると思いますが、私の場合は逆。「なんでこんなに嫌なんだろう?」と、その理由を知りたくなって、どんどん深掘りしちゃう。そういうとき、つくづく自分は漫画家だなぁと思います。

私もキャラに乗り移って描きはしますが、距離感は意外とドライですね。痛い目に遭うことになる登場人物に対しても、「あなたの視野が狭いからそうなったんです、自業自得ですよ」と思いながら描いてました(笑)。

いちじょう・ゆかり 漫画家。1949年生まれ、岡山県出身。代表作に『デザイナー』『有閑倶楽部』『プライド』など。今年エッセイ集『不倫、それは峠の茶屋に似ている たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集』(すべて集英社)を発売。

※『anan』2022年12月7日号より。写真・中島慶子

(by anan編集部)