――『そばかす』の主人公である佳純は、恋愛感情も性欲もないアセクシュアルの女性です。最初に脚本を読んだとき、どんな感想を抱きましたか?
三浦透子:アセクシュアルというものを、この映画を通して知る人も多いかと思います。だから、責任の大きさも感じましたし、主人公の感覚がどうしても理解できないなら、やらない方がいいなと思いながら読みました。でも、わかると思ったことが圧倒的に多くて。幸せのあり方や、何を大切にして生きていくかというのは人それぞれでいいはずです。それなのに、世間的には20代の女性は当たり前に恋愛をしていて、していなくても本当はしたいはずという価値観がまだまだ多数であると感じます。そういうことに私自身、違和感を覚えることが多かった。だから、脚本を読んでいて、私が演じることで何かできるんじゃないかと思いましたね。自分の中での基準ですが。
――佳純のようなキャラクターは、これまでの日本映画でほとんど描かれてこなかったと思います。どのようなアプローチで役を掴んでいったんでしょうか?
三浦:役へのアプローチは、今までと変わりません。それは佳純という人物をちゃんと理解するということ。アセクシュアルであるということが彼女のアイデンティティのすべてではありません。そういうラベルに集約して彼女をひもとくことはこの映画のメッセージに反することだと思いました。うつ病を抱えた父親やAV女優の仕事をしていた友達も登場しますが、そういうレッテルを剥がして、生身のその人自身と向き合うことが大切なんだ、それが隣の誰かを救う優しさになるんだということを描いた映画です。だから、私自身もそういう優しさを持って彼女を理解しようと努めました。
――終盤、家族で焼き肉を食べているとき、妹が佳純に「お姉ちゃんはレズビアンなんでしょ?」と言う場面が印象に残っています。あれも、何を考えているのかわからない佳純に「レズビアン」というレッテルを貼ることで、理解可能なものにしようというシーンだと思いました。
三浦:妹のあの言葉は、彼女なりの精一杯の優しさでもあったと思うんです。告白してくれたら、別に否定する人なんてこの家族にはいないよ、という。でも、そもそも告白しないといけないものなのかな、誰かに説明する必要なんてあるのかな、というのも同時に感じました。演じていて私自身もいろいろと考えさせられたシーンでしたね。登場人物、みんな優しいんですよ。ただ、その優しさをもってしても救えない何かがあるというのも事実で。だけど結局、わかり合うために必要なのもやっぱり優しさなんです。そういう意味で、すべての登場人物に愛を持って観られる映画だと思います。
アーティストになれるとは思っていませんでした。
――三浦さんは本作の主題歌である「風になれ」も歌われています。羊文学の塩塚モエカさんが作詞と作曲を手掛けられていますが、これは三浦さん自身のリクエストだったそうですね。
三浦:制作の経緯を言うと、出演オファーをいただいたときに、主題歌も歌ってほしいと言われました。じゃあ、誰に頼もうかと自分の音楽チームと相談する中で、いつかご一緒したいと思っていた塩塚さんの名前を出したんです。ただ、自分の中で決定打になったのは、ラストシーンを撮っていたとき。佳純が走り出すシーンですが、この後に流れる音楽は塩塚さんにお願いしたいと心が決まりました。映画を何度も観て、想いをしっかり汲み取った曲にしていただけて感謝しかありません。自分としては、あの疾走の先の佳純のために歌ったつもりです。
――12月14日には、「風になれ」を含む2ndミニアルバム『点描』がリリースされます。どんな想いで作られたんですか?
三浦:前回のアルバム(『ASTERISK』)は、全体のコンセプトを決めてから曲を作っていきました。だけど、今回のアルバムはそうではなくて、一曲一曲を完成させていった感じなんです。だから、全部を並べたときにどういうものが見えるのかは、私もまだわかってなくて。でも、確実に私の“今”を集めた作品にはなっていると思います。
――塩塚さんの他にも、YeYeさん、有元キイチさん、小田朋美さんなど錚々たるメンツが楽曲を提供されています。事前のやりとりなどあったのですか?
三浦:曲を作っていただく方には、事前に私とお話ししていただく時間を作ってもらっています。別に音楽の話ではなく、最近興味があることや考えていることを話すだけのこともありますが。その上で曲を作っていただくことで、私自身が自然と歌える曲にしたいという想いがあります。たとえタイアップ曲だとしても、自分がしっくりこないと感じてしまう曲や歌詞は歌わないようにしようと思っていて。だから、自分から遠くない、自分の真ん中にあるものをちゃんと積み重ねたアルバムが作れたかなと思います。
――このミニアルバムには、ご自身で作詞をされた曲も収録されているそうですね。
三浦:作詞って、自分が届けたいメッセージを言葉にする作業だと思い込んでいたんです。考えていることはもちろんありますが、人に伝えたいかと言われたらそうではないので、自分はできないなと思っていました。けど、別に自分の思っていることを書かなくてもいいんだよと言われて。今回は、なんとなくの主人公を思い浮かべながら、言葉遊び的に書いてみました。今の自分の感情を書いたつもりはなかったのに、完成したものを読み返すと「あ、今の自分はこういうことを考えているんだな」と感じられる部分もあって。作詞ってそういう作業なんだという気づきもあって面白かったですね。
――では、その物語の主人公は三浦さん自身ではないんですか?
三浦:結果として私に近くなったとは思います。ただ、自分だと思いすぎると書けないこともあるし、自分じゃないことにしてしまえば、自分が思っていないことも書ける。そうやって自分と少し距離を取ったから書けた詞だと思います。
――歌手デビューのきっかけは、タナダユキ監督の手掛けたCMで歌声を披露したことだそうですね。最近も連絡を取ることは?
三浦:つい先日、連絡を取ったんです。「今度、新しいアルバムを出すんです。いま歌手をやっているのは、タナダさんとの出会いのおかげです」とお伝えしたら、「純粋に嬉しい。あなたの声を楽しみにしている」と言ってくださって。いただいた縁を形にできる今があって、嬉しいなと思いました。
――三浦さんの歌声は一度聴いたら耳から離れない強さと繊細さがあると思います。タナダさんに見出される前に、歌手になりたいとは思わなかったんですか?
三浦:歌うことも自分の歌声も前から好きではありました。ただ、アーティストになりたいと思ったことはありませんでした。以前所属していたのが音楽系の事務所で、ダンススクールにも通っていたので、周りにはアーティストになりたい子がたくさんいました。そういう子たちと比べると、アーティストになるときに必要な精神性みたいなものを、私は持っていない。人前でパフォーマンスをするとか、自分の想いを届けたいとか、そういうものが自分にはない。だから、歌うという行為はできるし、役者として演じた役の中で歌うこともできるけど、アーティストにはなれないなと感じていたんです。だけど、気づいたら何かこんなことになりました(笑)。今は、この感覚の私のままでもできるアーティスト活動もあるのかなと思えています。あと、始めてから2年くらい経って、私の中でアーティストとして育っている自我のようなものもあるかなと思います。
恋愛感情も性欲もない女性が、周囲の無理解に傷つきながら、それでも強く生きていく姿を描く映画『そばかす』は、12月16日~全国公開。劇団「玉田企画」を主宰する玉田真也が監督を、映画『his』の脚本で高い評価を得たアサダアツシが企画・原作・脚本を務める。ドラマ『六本木クラス』の挿入歌「点灯」などを収録した2ndミニアルバム『点描』は12月14日リリース。
みうら・とうこ 1996年10月20日生まれ。5歳のとき、2代目なっちゃんとして、「サントリー なっちゃん」のCMに出演し俳優デビュー。近年の出演作に映画『ドライブ・マイ・カー』『スパゲティコード・ラブ』など。2020年、1stミニアルバム『ASTERISK』をリリース。歌手としては映画『天気の子』の主題歌なども歌っている。
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※『anan』2022年12月7日号より。写真・安保涼平 スタイリスト・佐々木 翔 ヘア&メイク・秋鹿裕子(W) インタビュー、文・鍵和田啓介
(by anan編集部)