長期的視野を持つことが必要 デジタル庁発足から1年、成果と課題を考える

2022.10.12
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「デジタル庁発足1年」です。

課題はあるものの一定の成果はあり。育てることが大事。

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デジタル庁が発足して、9月で1年が経ちました。大きな目玉として掲げられたのはマイナンバーカードの健康保険証としての利用開始でした。ところが導入機器にコストがかかることや、利用したほうが料金が高くなるなど課題が挙がり、マイナンバーカード自体の普及も物足りなさが残っています。

政府でもこれまで紙で管理していたデータをクラウド上に移行し、効率よく使える仕組みが始まることになりました。ただ、そこで使われるクラウドはAmazonとGoogle。いま日本は欧米と歩調を合わせた自由主義諸国のアライアンスにいますが、有事の際、国のデータが、外国のクラウドサービスによって共有されているのは安全なのかという心配もあります。自国のデータをどのようにして守るかはこれから丁寧な議論が必要でしょう。

コロナ対応においても、デジタル庁が立ち上がったことで、新型コロナワクチン接種証明書アプリが迅速に開発されました。外国からの渡航者を管理する「Visit Japan Web」の運用も行っています。他にもキャッシュレス法の成立、地方自治体のシステムの標準化、デジタル田園都市国家構想の推進、教育分野のデジタル化や医療情報のDX化、信頼ある自由なデータ流通「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(DFFT)」などでも成果を残してきました。

デジタル庁は、各省庁とは独立して設置され、霞が関のコンサルタント的な役割を担います。文科省や厚労省、その他の省庁がデジタル化に関して悩んでいるときに、アドバイスや提案ができることを目指した、官民連携の省庁です。デジタル田園都市国家構想、地方創生×デジタル化の政策などで一定の成果があるものの、長時間労働、デジタル庁の民間出身職員が次々に退職するなど、官と民がうまく交じり合っていないという問題も実はあります。

とはいえ、発足してまだ1年ですから、ここで成果の有無を判断するのは早計だと思います。長期的視野に立ち、デジタル実装のための担い手たちや政策をしっかりと育てていくことが、今後の日本の成長につながるのではないでしょうか。

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ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。

※『anan』2022年10月19日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)