今の自分を受け入れて優しい気持ちを向ける。
2012年にアメリカで提唱され、今世界的に注目を集める「セルフ・コンパッション」とは一体どういうものか、日本の研究第一人者である有光興記さんが解説。
「『コンパッション』とは、思いやり・慈しみという意味。困っている人を見た時に自然と助けたくなるような気持ちを表す言葉で、それを自分自身に向けるのがセルフ・コンパッションです。何か苦しいことが起こった時も、ありのままの自分を受け入れて、優しい気持ちを向けることで、ストレスが軽減され、幸福感が高まります」
最近は、日本でも活用される場面が増えてきているそう。
「特に日本人は、自分に厳しくしなければならないと思っている人が多く、自分が傷ついたままなことがあります。傷ついた自分自身にセルフ・コンパッションを向けることで、自分を肯定できる力が身につくので、心理などの研究現場や企業の研修プログラムのひとつとして、幅広い場面で取り入れられるようになっています」
どんな時もありのままの自分で力を発揮できるように、セルフ・コンパッションを取り入れてみて。
セルフ・コンパッションで目指す内面の変化
人間の感情や行動は、否定的側面に注意が向きやすい傾向が。セルフ・コンパッションを高めることで本当の自分に気づき、状況を肯定的な側面からも見つめられるように。
【否定的側面】自己批判
人間は自分のしたことを良し悪しで判断しがち。例えば何かミスを犯した時「こんな私はダメだ」と厳しくしてしまい、自己肯定感が低下。自信が持てなくなってしまう。
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【肯定的側面】自分への優しさ
たとえ失敗やミスをしたとしても理解を示せるようになる。「大変だったね、でも大丈夫だよ」と、自分自身に対して優しい言葉をかけることで、いつも温かい気持ちでいられる。
【否定的側面】過剰同一化
何か嫌なことや思い通りにいかないことがあると、不安や恐怖などで頭が混乱して、心がネガティブな感情で支配されてしまう。何でも人のせいにして、怒りが周りに向く場合も。
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【肯定的側面】マインドフルネス
ネガティブな感情に振り回されずに、今この瞬間の感情や身体感覚に気づきを向け、ありのままを受け入れる。新たな気づきが生まれ、バランスのとれた見方ができるようになる。
【否定的側面】孤独感
何か悪いことが続くと、「どうして私がこんな目に遭わないといけないの?」と自己嫌悪に陥る。さらに「こんな思いをしているのは私だけでは?」と孤独感が押し寄せてくる。
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【肯定的側面】共通の人間性
人間なら誰しもが痛みや苦しみを経験するもの。それらが「私だけ」にもたらされるものではなく、すべての人に共通する経験だと認識できれば、孤独を感じることも少なくなる。
チェックテスト
今現在のセルフ・コンパッション度をチェック。「その時の心理状態によって結果は大きく変わってきますので、低くても落ち込むことはありません。意識してワークに取り組むことで、高い状態を維持しやすくなります」
【やり方】
・〈質問群i〉〈質問群ii〉の質問に関し、選択肢から自分の考えに最も近いものを回答してください。
・〈質問群i〉〈質問群ii〉それぞれの回答の点数を合計します。
・計算式に当てはめ、点数を算出してください。あなたのセルフコンパッション度がわかります。
【選択肢】
1点:いいえ
2点:どちらかといえば、いいえ
3点:どちらともいえない
4点:どちらかといえば、はい
5点:はい
〈質問群i〉
・何かで苦しい思いをした時には、感情をバランスよく受け入れる。
・自分の至らない点を感じた時、「他の人も決して完璧じゃない」ということを思い出すことができる。
・自分が苦しい・大変と感じる時期は、適度に自分自身をいたわり、優しくできる。
・何か苦しいと感じることが起こった時、その状況について俯瞰的に偏りのない見方ができる。
・自分の失敗は、ある種人間っぽい一面だと考えることができる。
・自分自身の好きでないところについて「そんなところもあるよね」と自分で理解を示し、優しい目で見ることができる。
〈質問群ii〉
・自分の至らない点を不満に思うし、そのことで自分を責める。
・気分が落ち込んだ時には、間違ったことすべてについて不安になり、いつまでもくよくよと心配してしまう。
・自分にとって大切な局面で失敗した時、無力感で頭がいっぱいになってしまう。
・自分自身の好きでないところについては、優しくなれないし、いらだちを感じる。
・気分が落ち込んだ時、「どうして自分は他の人より不幸なんだ」という気持ちになりがちである。
・自分にとって大切な局面で失敗した時、殻にこもり孤独感を抱く傾向がある。
【計算方法】
〈質問群i〉合計点+36+〈質問群ii〉合計点=あなたの点数
【点数とセルフ・コンパッション度】
12~27点…20%
28~36点…40%
37~42点…60%
43~48点…80%
49~60点…90%
有光興記さん 関西学院大学文学部総合心理科学科教授。日本におけるセルフ・コンパッション研究の第一人者。著書に『自分を思いやる練習 ストレスに強くなり、やさしさに包まれる習慣』(朝日新聞出版)など。
※『anan』2022年10月12日号より。イラスト・加納徳博 取材、文・鈴木恵美
(by anan編集部)