キッチンや本屋をシェア? 急増中の“スペースシェア”の魅力に迫る

2022.9.14
長年やりたかったことをこれから始めるなら、ぜひおすすめしたいのが、街なかに増えている“スペースシェア”の活用。一つの場所を同じ夢や目標を持つ人と共有する、そんな新鋭のサービスを使いこなして、憧れのキャリアや気になる趣味に今こそトライしよう。

個が力を持つ時代こそ“場の共有”が最適解。

Lifestyle

都市部を中心に畑やカフェなどの空間を共有するサービスが急増。そんな“スペースシェア”が増えている理由を、マーケティングライターの牛窪恵さんが分析。

「昔は場ありきで人が集いましたが、ネットの普及で“人が人を呼ぶ時代”になり、一つの場所にとどまる必然性が薄れました。またSDGs志向が強まり、既存のモノやサービスを有効活用する意識にシフトした結果、スペースシェアの需要も高まっています」

会員制シェアキッチンを営む『おへそキッチン』代表の小野円さんは、働き方の多様化に着目。

「副業が広がった結果、作業場所を探す人が増えました。また横の繋がりに重きをおくフリーランサーにもスペースシェアは適しています」

仕事以外の価値も、『渋谷○○書店』管理人の横石崇さんは推す。

「初期費用をかけずにやりたいことを始められるというコストパフォーマンスの良さも魅力ですが、最大の利点は場所を介して仲間と出会い、自分らしい生き方ができるようになることだと思います」

魅力に満ちたスペースシェア。気になる現場を覗いてみよう。

“スペースシェア”を読み解くKeyword

1、新しい人との出会い

夢や目標を持った入居者がスペースシェアに集う。「将来起業するまでのファーストステップとして入居する人もいれば、趣味を深めるために活用する人もいたりとさまざま。ともあれ、一つの場にいろんな人が集まり意見交換をしたり、時には助言をし合ったりと、お互いにいい刺激を与え合えるはず。ご縁があれば、一つのことに一緒に取り組む仲間に出会えるかもしれません」(牛窪さん)

2、自分らしさの体現

スペースシェアを有意義に使うには、自分がやりたいことにとことん向き合うことが大切。「スペースシェアは好きなことや得意なことで自己表現する、その最初の一歩を踏み出す場になります。その業態は多岐にわたりますが、なかには金銭的な対価を得られるものも。スペースシェアというリアルな空間での“小商い”の経験を通して、自分らしく働く充実感を改めて感じられるはず」(横石さん)

3、設備や情報の共有

場所だけでなく設備もシェアできるのがコスト面でも魅力。「いずれ自分のお店を持ちたいという人にとってスペースシェアはやはり嬉しい。特にサロンやジムなどは必要な機材や道具が多いので初期費用がかかりますが、そこがシェアできれば、趣味を深めたい人が独立する際にもハードルが下がります。また他の入居者と有益な情報をシェアできるのもポイントです」(牛窪さん)

4、地域との繋がり

スペースシェアでの人との繋がりは地域にも拡張しうる。「シェアキッチンで出会った地元の農家と町のベーカリーの店主らが、それぞれの商品を使って一緒に商品開発した事例も」(小野さん)。横の繋がりから生まれる化学反応から町の風景にも影響が。「スペースシェアは町の文化が集まりやすい場所。その町のカラーを反映する場所として、今後いっそう発展していくでしょう」(横石さん)

スペースシェアの現場Voice

実際にスペースシェアを利用しているのはどんな人? 夢や目標を実現した人は、どんなふうに活用している? 人が集う“場所”をつくり、さまざまな人が夢を叶えるのを目にしてきたスペースシェアの経営者に尋ねました。

キッチンをシェア@おへそキッチン

「働きたくても働けない、そんな人の力になりたくて会員制シェアキッチンを始めました」

と話すのは、『おへそキッチン』代表の小野円さん。

「大学入学から27歳で結婚するまで短期のバイトを含めて約70の仕事に携わり、自分に合う働き方を見つける大切さを実感。でも結婚後にある面接で“いずれ妊娠するでしょ?”と質問され、初めて面接で落ちたんです。それを機に自分で仕事をつくることを意識。それから出産を経て、同様の悩みを持つ女性たちとジャムやピクルスの製造業をスタート。当初は近所のカフェの工房を借りていましたが、自由にならないことが多く早急に自分たちの工房をつくりました。しばらくして休職中のパティシエなどから、キッチンを使わせてほしいとの問い合わせが続き、シェアキッチンとしても運営することに」

保健所の営業許可を得た『おへそキッチン』は製造した商品の販売が可能。

「会員の多くはここで商品の製造販売をしつつ価格設定や集客を“練習”し、その間に貯めた開業資金などで自分のお店や工房を持ちます。それ以外の目的の会員もいて、たとえば勤務先のメイド喫茶がコロナで閉業した女性はお客様に毎月手作りのお菓子などを贈るサービスを始め、その工房として使っています。また、無農薬で育てたトマトやバジルをソースにして販売するために入会した若い農家も」

多様なシェアキッチンが今後も増えると小野さんは予測する。

「今後はシェアキッチンで作った商品をシェア商店で売るなど、シェア同士でコラボする事例が増えると思います」

Lifestyle

24時間365日利用できるのも魅力。自分の生活に最適な形で新たなチャレンジができる。

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出産後に始めたジャム製造。現在は他のスタッフに引き継いで運営。

Lifestyle

シェアキッチンと同名のジャムとピクルスは、地元の食材を使用。

Lifestyle

“メイドが贈る焼き菓子便”として活躍する「Petrichor」さん。

Lifestyle

「焼菓子屋カトルカール」さんはシェアキッチンで理想の働き方を実現。

月額1万2000円(月10時間利用)。《チカバ》東京都国立市富士見台1‐17‐25 VIPビルB1 近隣に系列店《ツインズ》も。https://ohesokitchen.com

本屋をシェア@渋谷○○書店

“みんなで運営する新しい本屋”として「渋谷ヒカリエ」8階に開業した『渋谷○○書店』。

「スペースはもちろん、接客して本を売るという書店員の業務も棚主でシェアしています」

と話すのは管理人の横石崇さん。そもそも渋谷でシェア書店を始めるに至った経緯とは。

「文化を発信するという点で、書店は“町”を形成する重要な役割を担っていると考えています。ただ昨今、町の書店が次々に閉業に追い込まれており、渋谷も例外ではなかった。そんななかで施設から空きテナントの話を聞いた時、数年前から各地で町の書店の店主が一丸となりシェア書店を営む事例を思い出し、渋谷でもやってみようと」

そこで約40cm四方の棚を個人に貸し出し、さらに各棚主が店番をする仕組みを導入。棚主が店番できない場合は休業に。

「当店は棚主が主体的に運営しています。客×本の出合いに加え、お客さんと棚主、棚主同士、さらには著者との繋がりも。また、棚主も6歳の女の子から80歳の方までいて幅広いです」

結果、単に本を購入するだけでなく、人との出会いや交流などの価値を書店に求める真の本好きがこのお店には多いそう。

「“偏愛”というテーマのもと棚主が選書しており、当店の130個ある棚にはそれぞれの思いが詰まっています。ある研究ではテクノロジーの発展が進むにつれて人は“平均的”になるそうですが、対極にあるのが偏愛ではないかと。偏愛や情熱こそが人の凸凹をつくり、それらが集まった空間は絶対に面白い。『渋谷○○書店』に携わる全ての人が、そう実感できる場所になればと思っています」

Lifestyle

130人の棚主の“好き”が詰まった棚が並ぶ。ぶらぶら歩くだけでも楽しい愛に満ちた書店。

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「渋谷コミュニティ書店」。コミュニケーション関連のビジネス本が並ぶ。

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気象予報士の試験対策本や気候に関する書籍を揃える「津村書店」。

Lifestyle

なかにはしゃっくりに関する絵本や小説を並べる「しゃっくり書店」も。

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来訪者と店主を繋ぐノート。感想やメッセージなどを自由に綴れる。

一棚あたり月額4950円。東京都渋谷区渋谷2‐21‐1 ヒカリエ8F 営業時間は公式ツイッター@Shibuya_Booksをチェック。

牛窪 恵さん インフィニティ代表取締役。マーケティングライターとしてメディア出演多数。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の客員教授も務める。

小野 円さん 70の仕事経験を経て、会員制シェアキッチン『おへそキッチン』を設立。新しい働き方を求め、教育・福祉に関わる非営利法人の代表理事も。

横石 崇さん &Co.代表取締役。『渋谷○○書店』の管理人を務める。国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」発起人。

※『anan』2022年9月21日号より。イラスト・naohiga 取材、文・門上奈央

(by anan編集部)