――舞台『桜文(さくらふみ)』で演じる霧野一郎は、久保史緒里さん扮する吉原随一の花魁(おいらん)・桜雅(おうが)への淡い恋心と、作家としての情熱に突き動かされる人物。これまでのイメージにはないような役柄ですよね。
最初に脚本を読ませていただいたとき、僕のどこを霧野と結びつけて選んでくれたんだろうとは思いました。ただ、役にすごく感情移入したんです。僕は今24歳なのですが、今年を転機の年と捉えていて、役者として幅を広げたいというのもありました。とはいえ、セリフ量も多く、百何年も前の時代の話。一から学ぶ姿勢でやる必要があるだけに、「やります」と言うまでに1週間悩みました。
――結果的に一番背中を押してくれたことは何でした?
この世界って、誰かからきっかけをいただかないとできない仕事だと思うので、自分に声をかけていただいたことがありがたくて。舞台は3年以上のブランクがありますし、ハードルも高いけれど、それでもやりたいと思えたのはホンの力ですね。読む側にもパワーがいるくらいエネルギーに溢れている作品で、魅せられたんです。
――稽古に入ってみての印象は?
今の時点では全員でホン読みしかしてないのですが、全員の意識が同じ方向に向かっているのを感じて、これは絶対に面白くなるなって確信できたんです。霧野としても桜雅がいてくれたから出てきた言葉や感情があって、マスクや衝立がある中ではありますが、相手の目を見てお芝居ができる幸せを感じました。大人になると、なかなか新発見とか新鮮な気持ちに出合えなかったりしますが、まるで子供に返ったみたいに、今日はこれができるようになった、今日はこんな感情になれたって、新しい発見があるんです。
――霧野のような、自分を見失うほど狂おしい恋に落ちる役は初めてかと思いますが、演じるにあたって、今までと違うアプローチが必要だったりするものですか?
そうですね。これまでは自分の中でリアリティのある体験や感情を紐づけて役作りしていたんです。でも霧野のように、ひとりの女性にここまで肉体や精神を削って立ち向かうって自分では経験したことがなくて、ファンタジーの世界に近い。でも今は、自分の感情になかったものが、霧野を通して自分のものになっていくのが楽しい。毎日エネルギーをたくさん消費しますが、充実しています。
――先ほど、今年が転機だとおっしゃっていましたが、そう考えるきっかけはあったんですか?
この世界では、すらっとしていてスタイルがよくて端正な顔をしている方が多いですよね。僕のような顔つきや身長だと、逆に役にハマれば強いから、そこをウリにした方がいいと言われて、これまでオーディションでも近い役柄を受けていたんです。でも大人になるにつれ、新しい子がどんどん出てくる中で、この枠にしがみついていたらいつか消えるなって思ったんですね。ちょうどステイホームの時期で仕事がなかったことも重なり、普段は絶対に見ないような作品に手を伸ばすようになって、こういう役ならいけるかなって考える時間もあって。マネージャーさんに、役の幅を広げたいのでイメージと違う役でもオーディションがあればチャレンジしたいですと話して。でもそうしたら、これまでと違う役で引き立ててくださる方が出てきたり。少しずつだけれど役者として成長できているのかなと思えたのは嬉しいです。
――新たなチャレンジに対する怖さはないですか?
なかったです。やっぱり歳もとるので、ずっと同じところにはいられないですから。今回は久しぶりの舞台ですし、時代劇だし、もしかしたら自分の人生を大きくひっくり返すものになるかもしれないって、いい意味でのプレッシャーはあります。でも、役者さんしかりスタッフさんしかり、もちろん演出の寺十(吾/じつなし・さとる)さんも、いろんな方が意見を出し合える現場で、すごく贅沢な時間を過ごさせてもらえているんですよね。霧野の役ひとつでもいろんな方から意見をいただき、徐々に世界が広がっていく感じがとても面白いですね。
――舞台という場所に対してはどんな想いがありますか?
周りの俳優さんたちの舞台を観に行くと、やっぱり生モノっていいなって思うんですよ。ただ、やれるかどうかはまた別の話。3年以上舞台から離れて映像の世界でやってきて、いかにナチュラルに表情で見せられるかを考えてきたんです。でも舞台は、つぶやくシーンもしっかり音にしなきゃ伝わらない。そこが大きな壁になるだろうと、今、ボイストレーニングもさせていただいているのですが、寺十さんや皆さんにセリフが聞き取りやすくなったって言っていただけるようになって。最初の頃は声の届け方を意識していましたが、今は意識せずともセリフを発せられるようになってきて、やっぱりやってよかったです。
――そこまでやりたいと思わせるお芝居の魅力って何ですか?
ショップ店員を始めたときもモデルのお仕事も、ただただ楽しいからやっていたんです。大好きな服を着てお客さんと話すとか、自分自身がモデルになって、この服をどうしたら魅力的に見せられるかを考えたりは、服が好きでやっていたこと。言うなれば仕事の感覚がなかったんですね。でもお芝居となると僕じゃない人の人生を背負うことになるわけで、楽しいだけじゃない。現場ではしっかり大人に叱られたりもして、初めて分厚い壁にぶち当たりました。今までの僕は、そういう場面で逃げていたんですよね。学校もそうだし、習い事もすぐに辞めてたし。でも、どんなにこっぴどく叱られても、お芝居に関しては、いつかギャフンと言わせてやるぞって闘争心を掻き立てられた。それって自分の中になかったもので…。今もまだ楽しいと思えるところまでは行けていないけれど、やり甲斐は感じられているのかなと。
――向き合い方が変わった?
そうなんです。友達にも明るくなったねと言われるようになりました。これまで友達と大人数で外で遊ぼうっていう人間ではなかったんですが、付き合いでもみんなが集まる場に行くようになったし、そこに集まる人を観察するのが楽しいと思えるようになって、日常からゆうたろうが変わった気がします。新しい人生というか。
――役も他人なわけで、他人に興味が湧いたのかもしれないですね。
そうだと思います。接する人の思考に繋がりたいと思うようになって、相手に合わせて、聞き手になったり、ちょっとお兄ちゃんぽく振る舞ったり、ぶりっこしてみたり、自分を変えてみたりして。
ゆうたろうさんが出演する舞台『桜文』は、9月5日(月)~25日(日)、渋谷・PARCO劇場にて上演。大阪、愛知、長野でも公演あり。脚本は秋之桜子による書き下ろしで、寺十吾が演出を手がける。明治後期の吉原遊廓を舞台に、当代随一と謳われる花魁・桜雅(久保史緒里)と初めて吉原を訪れた若き小説家の霧野(ゆうたろう)が運命的な出会いを果たす。
ゆうたろう 1998年6月3日生まれ、広島県出身。カリスマショップ店員として注目され、2017年に俳優活動を開始。翌年『3D彼女 リアルガール』で映画デビュー。ドラマ『来世ではちゃんとします』や『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』、映画『サマーフィルムにのって』、現在放送中のドラマ『ばかやろうのキス』(日テレ系)などに出演。
※『anan』2022年9月7日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・木暮智大(bloc japon) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)