――魔法使いの役はアン ミカさんにぴったりだと思いました。話を聞いた時のお気持ちは?
日頃から、やりたいことを口にしていると誰かが覚えていてくれて、チャンスが近づくという意味で、「口に十と書いて叶う」と言っているんです。いろいろな願いを叶えてきましたが、ミュージカルは好きすぎるからこそ高尚で、触れてはいけない領域のもの。でも、亡くなった母が生前、テレビで流れていた宝塚を見て、「歌も上手いしダンスもやっているから、こういうのをしたらいいのに」と言ったこともあり、いつか、ちょっとでも出られたらな…という夢でもありました。だからこそ、びっくりしたし、感激しました。人生において、パリコレ、結婚に並ぶ興奮具合です。50歳の新人ですが、頑張ります!
――歌やダンスは、身近な存在だったのですか?
両親が聖歌を歌っていたりと、ずっと音楽が流れている家でした。教会に行って歌うこともあり、私は声が低いのでハモる側に回ることが多く、ハーモニーを作る作業が楽しかったですね。ダンスはもともと好きで、MTVでポーラ・アブドゥルやマドンナのバックダンスを見てすごいなと思い、女の子だけでグループを組み踊ったことも。ただ、若い時に得意だったことを今やろうとすると、運動会で張り切ってこけるお父さんみたいになりそうだから(笑)、無理しない程度にやろうと思ってます。
――ミュージカルの魅力とは。
夢があって、自分以外の人生を垣間見ることができるところ。長年愛されているストーリーも、演出家さんや役者さんが変わると解釈が変わり、何回観ても感動できます。あと、日常にある音とは違う音階を感じられるのも楽しいですね。人の声が楽器となり、周りで流れる音と一体となってハーモニーが生まれ、台詞として伝わる。いい意味で奇妙な、全ての世界観が好きです。
――先ほど「50歳の新人」とおっしゃっていましたが、挑戦する時に大事にしていることは?
前提になりますが、まず、ワクワクしないことには挑戦しないようにしています。ワクワクしないことをすると苦痛になり、“やらされた感”や被害者意識が出やすくなりますから。内なる声を聞き、心からやりたいと思ったことに絞ると、言い訳をしないし、そのために必要な勉強時間も作りますから。商品をプロデュースする時も、売れるものではなく、自分が心からいいと思うものを作ることを大事にしています。
――アン ミカさんは褒め上手として有名です。初めて人と会う時に、どんなところを見ますか?
いいとこ探しをしているかな。でも、意識しているわけではなく、単純な人間だから、斜めから見られないのかもしれないです。あと、人って、自分が「こうあってほしい」と思ったように見えてしまうことがあるじゃないですか。自分自身が整ってないと相手を見る目も曇りガラスになってしまうので、自分の心身の健康に向き合うことは大事にしています。素敵だと思ったことを口に出すと、相手も喜んで褒め返してくれる。そのやりとりで心がほぐれることってあると思うんですよ。ただ、自分がプロデュースする商品に関しては逆で、悪いところをとことん探す。人の悩みを解消するものを作っているので、ダメなところを潰していかなきゃいけないんです。サンプルが上がって最初の3分は「かわいい~!」と喜ぶけど、すぐに「さぁ、ネガティブなところを探しましょうね!」って切り替えます(笑)。
――褒められて嬉しかったことはありますか?
声です。努力でなかなか変えられないものだからこそ、自分が持っている大きな要素を褒められた気がして嬉しいんです。私、タクシーに乗る時はバレないように重装備ですけど、「すみません、この道を行ってください」と運転手さんにお願いするとすぐに、「アン ミカさんでしょ?」となる。しょっちゅうです。「なんでわかったんですか?」と聞くと「モロバレですよ。喋り方! 声! アクセント! その声は唯一無二ですよ」って。嬉しくて、無駄に喋っちゃいますね(笑)。あと、ものまねをしていただけるのも、この声のおかげだと思っています。ものまねって、したところで誰かわからなければウケないものでしょう。私の世代でいうと千昌夫さんや和田アキ子さんなど国民的な方しかしていただけないもの。ものまねされたら一流だと思っていたので、最初は涙が出ました。
――一番最初にものまねされたことは覚えていますか?
『AHNdante』というお散歩番組を15年ほどやっていたんですが、私の美容術を紹介する「アン流キレイ術」というコーナーをものまねしてる女性がいたんです。超マニアックですよ! 「この季節、体にいいのはお豆さん!」「にんじんさん!」と、私が食べ物を“さん”付けしているのを真似ているだけなんですけど、めちゃくちゃ面白くて、嬉しかったですね。その後、全国放送のものまね番組でもやっていただいて。司会の今田耕司さんに、「こんな特徴のない私を」と本気で言ったらツッコまれました(笑)。
アン ミカさん出演のミュージカル『シンデレラストーリー』は、9月6日(火)から19日(月・祝)まで日本青年館ホールで上演。愛知、福岡、大阪でも公演あり。鴻上尚史さんが書き下ろし、音楽は武部聡志さん、作詞は斉藤由貴さん、ウォーリー木下さんによる演出の本作は、今回17年ぶりの上演。アン ミカさんは、魔法使い役を務める。
1972年3月25日、韓国・済州島生まれ。大阪府出身。’93年にパリコレに初参加以降、モデル、タレントとして幅広く活躍。テレビやラジオへの出演以外にも、エッセイ執筆や講演会、化粧品や洋服のプロデュース業も行う。自身初挑戦となるミュージカル『シンデレラストーリー』が、9月6日より上演される。
ワンピース¥265,100(PUCCI/エミリオ・プッチ ジャパン TEL:03・5410・8992) ピアス¥583,000 バングル¥1,415,700(共にジュエル・ジェイジー TEL:03・6778・8189) 靴¥97,900(クリスチャン ルブタン/クリスチャン ルブタン ジャパン TEL:03・6804・2855)
※『anan』2022年8月31日号より。写真・大内香織 スタイリスト・加藤万紀子 ヘア&メイク・三浦由美(JOUER) インタビュー、文・重信 綾
(by anan編集部)