〈危険な場所の方がとんでもなく美味いものにぶち当たっていることが多いかも〉。『鍋に弾丸を受けながら』の原作担当・青木潤太朗さんは、友人との会話の中でふとその事実に気づく。そんな青木さんの実体験がマンガになり、これが滅法面白い。
「もともと釣りが大好きで、釣果を求めて、趣味を同じくするアメリカやブラジルなどの友人たちをガイドに釣り旅行に出かけていました。一般の観光では行かないような場所で食べたものの中には衝撃的に美味しいものがあって、その思い出はマンガになるかもと思ったんです」
青木さんがメキシコの第二サンマルコス村で食べた「ロモアールトラボ(マフィアの拷問焼き)」や、下のコマで紹介している、ブラジルの「豚足(ハム)のファビュラ(いわゆるスラム)風」等々。紹介されているのは、ソウルフードの数々だ。
「どこで何を食べるかについては、知っていたものも知らなかったものもありました。塊の牛肉をオーガニックコットンで包んで火に投げ込んで焼く“マフィアの拷問焼き”は、南米やスペインなどではポピュラーな調理法らしいのですが、僕は初めて知りました。一方、シカゴ名物のイタリアン・ビーフ(サンドイッチ)は、旅行前にYouTubeで調べて率先して食べたいと思っていたもの。初体験は、釣り友だちのロブさんおすすめの店でした。九州のとんこつラーメンが店によって味が違うのと同じで、同じサンドイッチでも、グレービーの味などすごく特色があります」
日本人にとっての美食の概念を一変させるカオスなグルメレポート。食欲もそそるが、カルチャーの断片を知る上でも興味深い。現地に行って現地の人と交流したからこそ感じた、青木さんの視座からのリアルであり、そこも本書の大きな魅力だ。
このマンガに登場するのは全員が美少女(別途説明を参照されたし)なのだが、ワイルドな釣りに出かけるわ、野性味あふれるサンドイッチにかぶりつくわで、そのギャップも愛らしい。
「人気のTVドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドグルメリポート』に例えられることもありますが、ここに出てくる料理は、あんな危険地帯に行かなくても街や家で気軽に食べられるものが多いですよ(笑)」
たとえば、プレスリーの好物だったというエルビス・サンドイッチ。確かに自宅でも作れそう。そのカロリーにひるまなければ、だが。
原作・青木潤太朗 作画・森山 慎 『鍋に弾丸を受けながら』1 〈長年に亘る二次元の過剰摂取〉により、タトゥーもりもりの屈強な男性すら美少女に見えるという主人公・ジュンタローが楽しむスペシャルな味。KADOKAWA 924円 ©Juntaro Aoki 2022/KADOKAWA ©Sin Moriyama 2022/KADOKAWA
あおき・じゅんたろう マンガ原作者、小説家。福岡県出身。釣りと料理が趣味。元々は友人の森山さんと釣り師のアイドルの話を作ろうとしていたそう。
※『anan』2022年4月27日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)