“キャラ萌え”期を経て、日常を描くことのすごさが、ようやくわかってきました。
高校3年生のとき、小説「インストール」でデビュー。以降、数々の話題作を世に送り出してきた綿矢りささん。幼少期からアニメに触れるも、その付き合い方は時代によって変化していったそう。
「中高時代は弟が好きだった『幽☆遊☆白書』を一緒に見て、蔵馬というキャラにハマったり、友人の影響で『エヴァンゲリオン』も全作制覇。ただ、当時の私は周りに感化され、流行りに流されていた部分もあったと思います」
自分の好きなアニメとは…。それに気づかせてくれたのが、大学生の頃に見たアメリカの人気アニメ『ザ・シンプソンズ』だった。
「シンプソン一家の日常を描いたギャグアニメなんですが、今でも大好き。考えてみれば、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』も好き。自分が惹かれるのはギャグタッチの家族ものなんだなって」
さらに、「『ザ・シンプソンズ』で初めて“失礼”というものを学んだ(笑)」と当時の衝撃を明かす。
「シンプソン一家は個性的で愛すべきキャラなんですが、本当に好き放題やっていて。生々しい“失礼さ”で笑わせにくる表現方法をこの作品で知りました。風刺の効かせ方など、小説を執筆する上でも大変影響を受けましたね」
『ザ・シンプソンズ』同様、創作中に頭に浮かぶ作品があるという。それが『千と千尋の神隠し』。
「映画に登場する“カオナシ”が忘れられなくて。想像の世界のキャラクターですが、どこかリアルで現実にもいるような気がする。ちょっと不気味な雰囲気の人物を書くときには思い出しますね」
現在は1児の母でもある綿矢さん。息子さんと一緒にアニメを楽しみ、心に響いた作品も多いよう。
「『あたしンち』と『新あたしンち』は息子の影響でどハマり。夫も一緒に家族で見ながら、作品の感想を話すこともあるのですが、それで思い出すのが『ちびまる子ちゃん』。小さい頃、作品に出てくる西城秀樹さんや山口百恵さんについて親に質問していたなって(笑)。画面の中の家族とそれを見ている自分の家族、その2家族が賑やかに楽しんでいる感じも好きなんです。キャラ萌えしたり、筋の凝ったものを見るより、日常系アニメでほっこりするほうが私には向いていると再認識しました」
家族がテーマの日常系作品に対しては作り手としての見解も。
「私が書く恋愛小説では片思いの人と成就するなど、人間関係が完成されるまでを描いています。でも、日常系アニメは人間関係が完成してからを描き、だからこそ長く続くし、その分の大変さもある。例えば、『サザエさん』にしても登場人物は年を取らず、毎年同じ行事に向き合う。その繰り返しに耐えていけるのもすごいな、と。それは、デフォルメされたキャラが動き、声優さんの声が入るアニメの世界だからできること。私も、男女がくっついた“その先”を書いてみたい。そんな願望を抱くのも、アニメの影響です」
ザ・シンプソンズ
シニカルな笑いがツボるアメリカ史上最長のTVアニメ。
「“シンプソンズのバートみたい”と『勝手にふるえてろ』(綿矢さんの著書)のセリフに登場したこともあるくらい影響を受けた作品。執筆時はDVDを買って、夢中で見ていた頃だと思います」。架空の街・スプリングフィールドに住むシンプソン一家を通して、アメリカ中流階級の文化や社会状況をブラックユーモアふんだんに描くギャグアニメ。1989年に放送開始。世界各国で人気を呼び、現在は60か国以上で放送されている。©Capital Pictures/amanaimages
千と千尋の神隠し
国内外の映画賞を受賞、ジブリ映画No.1ヒット作。
「宮崎駿監督の作品はすべて見ていますが、『千と千尋の神隠し』も映画館に何度か足を運びました。カオナシは、千尋に砂金を差し出して気を引こうとするけれど、成功しなかったら豹変する。顔は同じまんまで。そういう人って現実にもいますよね」。2001年に公開。神々の世界に迷い込んだ少女・千尋が人間の世界に戻るために様々な出会いを経て奮闘する。当時空前の興行収入を記録したスタジオジブリの長編アニメーション。©2001 Studio Ghibli・NDDTM
あたしンち
家族みんなで楽しめるほのぼの系アニメの決定版。
「私が中高生ぐらいの時代設定なので懐かしさも。ただ、息子はちょっと違和感を抱いているようで。無口な頑固オヤジというものに馴染みがないから、『あのお父さん、なんでいつも怒ってるの?』と聞いてきたり(笑)。続編の『新あたしンち』(2015~’16年)は設定を少し現代に寄せていて、2つを見比べるのも面白いです」。2002~’09年に全330話放送。母、みかん、ユズヒコ、父の4人家族・立花家を中心とした物語。©ママレード/シンエイ
綿矢りささん 作家。1984年、京都府生まれ。2001年、「インストール」で文藝賞受賞。「蹴りたい背中」で、第130回芥川賞受賞。近著に『あのころなにしてた?』など。
※『anan』2022年4月6日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・市岡 愛 取材、文・関川直子
(by anan編集部)