パパ活女子の前に現れた女性作家の目的は…打算的に始まる“百合”模様を描くコミック

2021.11.22
作者の幌山あきさんが本作『マーブルビターチョコレート』に着手したのは、商業誌で「ウケのいい」マンガを描くことに行き詰まっていたとき。SNS上で読者から「百合になる二人の話」を読みたい、というリクエストをもらい、以前から温めていたパパ活をする女性のキャラクターが頭の中で動きだした。

パパ活女子×行き詰まった作家、互いを消費し合って始まる恋。

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「その待ち合わせの場に、パパのイメージとは真逆の女性が来たら面白いんじゃないかなと思ったんです」

パパ活をしているりこは、苦労のない人生を望む刹那的な考えの持ち主。そんな彼女の前に新しいパパとして現れる東(あずま)は、一見真面目かつ地味な女性。若くして華々しく小説家デビューしたものの、その後ヒット作に恵まれない東は、パパ活ルポルタージュを書くという真の目的を隠して、りこと距離を縮めていく。

「読者はある意味、東と同じ目線で、りこの印象がマイナスからスタートしていると思うんです。りこのいいところは嘘をつかないこと。だけど、距離が近づくほど本心を言わないような子でもあるので、何を考えているのか知りたくなるんですよね」

りこがパパという存在を消費して生きるのに対し、東も執筆のネタとしてりこを消費。打算的に始まる関係だが、「消費」というのも幌山さんが描きたかったテーマのひとつ。

「最近はリアリティショーなどが人気で、結果としての作品だけでなくその過程までエンタメになっていますよね。マンガの場合も、実生活でつらい体験をしたら『それをネタにしなよ』と言われることに、自分はすごく違和感があったんです。消費自体は止められるものではないけれど、受け取る側がもう少し自覚的になったら、何かが変わるんじゃないかなっていう思いはあります」

意地の悪い見方をすれば「百合」も消費を煽る言葉といえるが、だからこそこだわって描いている。

「他者を好きになるときの理想として、まずはその人の個性に惹かれたいですよね。この二人も『女性だから好き』ではなく、『好きになった人が女性だった』っていう、性別以前に人間同士の出会いであることを基本に考えています。男だから、女だからではなく、やっぱり人間同士の感情を描きたいんですよね」

物語に引き込みつつ「多くの人が持っている曖昧な感情に形を作りたい」という幌山さん。酸いも甘いも、そしてビターも噛み分けた人生のかけがえのない瞬間がそこにある。

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『マーブルビターチョコレート』 pixivで注目された作品を大幅に修正、描き下ろしを追加。本編で見えなかった二人の姿や、東を揺さぶる編集者の思惑が描かれ、より深みのある物語に。KADOKAWA 781円 ©幌山あき/KADOKAWA

ぽろやま・あき マンガ家。2018年、第39回イブニング新人賞・準大賞、’19年、第80回ちばてつや賞ヤング部門・大賞を受賞。本作が初の単行本。

※『anan』2021年11月24日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)