どこからバズるか? わからないから面白い。
「最近のヒットの流れ的には、まずTikTokで話題になると、そこからYouTubeの再生回数が増え、LINE MUSICのランキングやSpotifyのバイラルチャートに入り、そしてApple Musicのトップチャートに入るようになります」と教えてくれた、音楽ジャーナリストの柴那典さん。音楽制作のみならず、MVなどのアートワーク、更にはSNSを含めたマーケティングまで自ら考えて発信するアーティストが増えてきたようだ。データのやり取りだけで海外アーティストとコラボする機会もここ1~2年で増えたことから、ボーダーレスな活躍も。枠組みにとらわれない自由な発想、そして各分野で個性を発揮する、それが新世代アーティストたちの特徴だ。
今から押さえておきたい! 新世代アーティストのKEYWORD。
ジャンルも活動方法も様々な新世代アーティスト。特徴となるキーワードをタグ付けしつつ、数組ずつご紹介。この時代の空気や今後の音楽シーンが見えてくるかも……!
#KEYWORD 01:ボーダーレス
「コロナ禍で国内外の行き来が難しくなってから、日本でもCHAIやちゃんみななど、オンラインを通じて海外コラボするアーティストも増えてきています。打ち合わせもZoomでできるし、国境を超えた活動は今後も加速しそう」と柴さん。福岡出身のDoul、トラックメイクもこなす4s4ki 、NYで音楽制作を始めたLMYKら世界での活躍に期待できそうなアーティストが続々登場です。
Doul(ダウル)
底知れぬボーダーレスな才能ほとばしる18歳。
「海外のエレクトロニックなポップ・ミュージックからアコースティックなサウンドまで幅広く踏襲。英語も独学で習得し、メイクやファッションも含めたセルフプロデュース能力も。アメリカでEDM系のアーティストをプロデュースするDiploが彼女のインスタをフォローしていたり、今後の動向に注目」
4s4ki(アサキ)
ナイーブな感性を東京から世界へ発信。
「ナイーブで繊細な感性でエレクトロ・ポップを手がける4s4ki。7月にリリースしたばかりのアルバムではアメリカやオーストラリアのアーティストとコラボ。海外リスナーも増えてきています。Charli XCXやAshnikkoらロンドンの新世代アーティストに近いものを感じます」
LMYK(エルエムワイケー)
世界のジャム&ルイスが声に惚れ、プロデュース!
「’20年秋にメジャーデビューしたシンガーソングライター。ドイツ人と日本人の両親の元、アメリカで大学に通う傍ら音楽活動を開始。宇多田ヒカルを担当しているディレクターに見出されたこともあり、スタッフワークもワールドワイド。謎めいた存在感と、ちょっとくすんだ陰のある声が魅力です」
#KEYWORD 02:セルフプロデュース
Vaundyをはじめ、音楽のみならず映像やアートワークまでクリエイターとしてのセンスを発揮する、いわゆるセルフプロデュース能力の高いアーティストもいま注目を集めている。どうすればヒットを生み出せるかを研究しながら活動するWurtSや、公式サイトでは自作のゲームまで公開して楽しませてくれるMega Shinnosukeなど、多才だからこそ生み出せるオリジナリティ溢れる世界観に魅了される。
WurtS(ワーツ)
バンドサウンドで魅了する多才な研究者!?
「今年本格的に活動をスタートしたソロアーティストで、曲作りはもちろん映像やデザインも手がけるマルチアーティスト。“音楽家でもあり研究者でもある”という彼はマーケティング研究の一環で音楽活動をしているのも面白いところ。『分かってないよ』がSNSで大反響、ファンが急増中です」
Mega Shinnosuke(メガ シンノスケ)
全方位でカラフルな楽しさをクリエイト。
「’18年に『桃源郷とタクシー』で一気に注目を集めた、20歳。シンガーソングライターとしてのポテンシャルが高く、私立恵比寿中学や菅田将暉さんに楽曲提供もこなす実力派。音楽のみならず映像やアートワーク、自らのファッションも含めたセルフプロデュース能力に長けたクリエイターです」
#KEYWORD 03:次世代バンド
「ライブハウスでコツコツ集客を増やしていく活動がコロナ禍でなかなかできない中、TikTokやYouTubeなどのSNS発信で楽曲をバズらせて知名度を上げる次世代バンドが増えています」と柴さん。「そのぶん、そこからバンド自体の人気にどうつなげていくかは課題」とも。あたらよは新曲「8.8」を配信したばかり、chilldspotは9月15日に1st Album『ingredients』をリリースする。
あたらよ
恋の切なさを歌い凄まじい共感を呼ぶバンド。
「昨年『10月無口な君を忘れる』のMVがTikTokで話題になりYouTubeで2000万回再生を突破。TikTokでは踊れる曲も人気ですが、あたらよのような切ない曲も人気を呼んでいます。素材としての良さとトレンドを捉えたクリエイティブは十分、バンド自体の支持を広げていくのはこれからです」
chilldspot(チルズポット)
10代とは思えない渋み&大人なサウンド。
「音楽的才能、アレンジ能力に溢れる次世代バンド。ジャズやソウルなどブラックミュージックのエッセンスを取り入れたサウンドのセンスも持ちつつ、単にお洒落さだけで消費されないような芯のある言葉やメロディが耳に残ります。ボーカルの比喩根さんの10代とは思えない歌声にも圧倒されるはず」
#KEYWORD 04:実力派シンガー
オルタナティブな感性を大切にしながらポップに音楽活動を行う、新世代の実力派シンガーソングライターたちが増えたのは、まさに「あいみょん以降」といえるかも。楽曲にエンパシーを感じてモデル、俳優の太田莉菜がMVへの出演を快諾したという大比良瑞希や、大学院でクラシックを学び川本真琴とツーマンライブも行ったmekakusheなど、活動から目が離せないアーティストたちが登場。
大比良瑞希(おおひら みずき)
高感度リスナーと音楽家が称賛する歌声。
「去年リリースしたアルバム『IN ANY WAY』に参加したのが七尾旅人や蔦谷好位置、tofubeatsという布陣からもわかる通り、音楽家たちからも一目置かれるシンガーソングライター。スモーキーな歌声はソウルフルな曲とも相性抜群ながら、シティポップもフォークも歌える稀有な存在」
mekakushe(メカクシー)
繊細な感性で紡ぐ切実なポップソング。
「この春に初のアルバム『光みたいにすすみたい』を自主レーベルからリリースしたmekakusheは不思議な透明感とエレクトロニカの鋭角なセンスの持ち主。声にも曲にも、傷つきやすいが故の危うさと美しさを併せ持っていて、だからこそ切実な表現に。その独特な雰囲気が魅力です」
しば・とものり 音楽ジャーナリスト。1976年、神奈川県生まれ。音楽やサブカルチャーを中心に取材と執筆を行う。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)など。
※『anan』2021年8月4日号より。取材、文・上野三樹
(by anan編集部)