鏡リュウジが占う! 2021年後半、転機をもたらす“日食・月食デー”

2021.6.13
天文イベントとしての日食、月食そのものは珍しい現象ではありません。しかし古代から太陽、そして月が一転、かき曇るその現象は人々の心を震わせてきました。天と地の照応は一体どんな転機をもたらすのでしょうか? 占星術研究家・鏡リュウジさんにお話を伺いました。

月と太陽の重なりが地上の人々に告げた、「時代の変化」。

6

明るく輝く太陽が、突然、昼のひなかに欠け始め、そしてついには、日輪全体が隠される……。明るいはずの昼間の空が真っ暗になり、暗くなった太陽の円盤から神秘的な白い光が漏れ出して、「黒い太陽」が出現する……。

これが、皆既日食の様子です。「今度日食があるよ」と言うと、多くの人は「へえ、そうなんですね」と軽く受け流すことがほとんどでしょう。子どもの頃から今までの間に「日食」や「月食」を見たことがあるという人は多いと思います。そして、それはあまり大きなインパクトは残さなかったのではないでしょうか。

「日食といっても、日食メガネで見て、あ、太陽が欠けているな、とわかるくらいでしょ」と。月食に至っては、「月が隠れるというより、なんとなく月の色が変わるくらいだよね」という感じ。さほど大騒ぎするほどのことはない、というのが正直な感想ではないでしょうか。

実際、僕もそうでした。けれど僕が間違っていました。2009年の皆既日食を硫黄島沖の洋上で観測して、日食がどれほどすごいものか、思い知らされたのです。

部分日食と、太陽全部が隠される皆既日食は全く異なります。そのとき、昼のはずの空は夜になり、星が輝きだします。気温もみるみる下がり、鳥や動物、魚たちが不安に駆られたのか騒ぎ始めるのです。日食帯の外の水平線は、朝焼けとも夕暮れともつかない淡い光で照らされ、そのひと時はこの世とあの世の中間にいるような気持ちになってしまったのです。

月が太陽を隠すだけの天文ショーだと知っている現代人の僕ですら、息を呑む日食。かつての人々は、それを見ていかに戦慄したことでしょう。

占星術では、日食や月食は大変重要なものとされ、しばしば、王や為政者の異変を示すなどともされてきました。昨年から「グレート・コンジャンクション」(大会合)という木星と土星の重なる事象、つまり「合」が大きな歴史的な変化を表すと話題になっていますが、ペルシャやアラブで大会合が重視されるようになる前には、日食や月食こそが時代の変化を表す最も重要な印だと考えられていたほどです。

実際、日本でこの皆既日食を観測したその直後には、政権交代が起こり、民主党が与党になったということがありました。

この日食観測の体験から、僕は部分日食や金環食、月食まで「食」が占星術上とても重要なものだと改めて認識することになったのでした。

とはいえ、日食や月食そのものはさほど珍しいものではありません。実はたびたび、一年のうちでは数度、起こっている現象です。

ただ、日食や月食が実際に観測できる地域(食帯といいます)は限られているので、例えば日本で体験できる皆既日食、となるとそれは大変レアな機会だということになるわけです。その地域で実際に観測できる食はもちろん、最も重要になりますが、観測できない食も占星術では重要なキーになります。

太陽や月の光が欠ける「食」は一般的には凶兆だとされることが多いようです。

確かにそうした面はあるのですが、しかし、実際には人生を大きく拓くこともあるのです。

日食は太陽と月がぴったり重なる「新月」の、そして月食は太陽と月が向き合う「満月」の特別バージョンとなります。新月や満月と同じように、日々の生活の一つの大きな区切りや節目、意識の持ち方を変化させるきっかけを象徴すると考えればいいでしょう。

2021年下半期に起こる日食と月食

金環日食:6月10日

双子座での金環日食が告げる、情報との関わり方とその見直し。
太陽と地球の間を横切り、影をつくる月が双子座に位置する、金環日食。太陽のほうが月より大きく、日食の間はまるで美しい指輪のような太陽のリングを見ることができます。ただ、今回は日本では観測できません。古代の占星術では、観測できた地点で最も大きな影響が表れるとされています。その点では影響が少ないと考えられる今回の金環日食ですが、双子座の月が告げるのは初等教育やマスコミ、通信といったテーマ。オリンピック開催、ワクチン接種など問題が山積みである現在、子どもたちの教育や接種申し込みのシステム不具合、その報道の在り方などがさまざまに指摘される可能性があるでしょう。同時に、自分自身がどのように情報を得るか、世の中の問題とどう向き合うかを問い直すきっかけにも。太陽のリングが輝くカナダやロシア、部分日食となる北米やヨーロッパ、内陸部のアジアなど、海外の動きにも注目するといいかもしれません。

月食:11月19日

欠けた月から差すわずかな光で、物質的価値観の変化を見つめる。
牡牛座での部分月食は、日本のほとんどの場所で地平線から月が出てくる前に欠けている月出帯食に。全国で、夕方からその様子を観測することができます。“部分”とはいえ、月のほとんどが地球の影に入り、それに先立つ8日には、月が金星を隠す金星食も。この時期は、公私を問わず、さまざまな転機の訪れを感じる人が増えるかもしれません。牡牛座は“所有”を意味する星座であり、それはお金や家、持ち物など形あるものを暗示。欠けた状態で昇っていくこの日の月は、「今まで持っていなかったもの」について問いかけてくるのかもしれません。ずっと憧れていたそれは、あなたにとって真に必要な運命のピースなのか。それとも、ある種の常識の中で「持っているべき」だと思い込んでいたのか。単純な要、不要だけでなく、心の在りようにも関わる所有への思い。今、手の中にあるものと、ないもの。その対比が大事なことを教えてくれそうです。

皆既日食:12月4日

古代人が運命の予兆を感じた闇と冷気がもたらす人生の転機。
年の瀬に起こる射手座での新月。この月は皆既日食も。今回は南極付近で起こり、日本では観測できませんが、観測地域では太陽がすべて月に隠され、その瞬間、大気がグッと温度を下げるのを感じます。急に冷え込む闇の時間は、古代の人々が不吉な予兆を感じたのも無理ないほど厳格な雰囲気に。空を駆ける矢で表される射手座は遥か彼方にある理想を目指すとされ、幸運と拡大の星・木星を守護星とする星座。世界、貿易、司法、出版、大学などの高等教育への関心が高まるときです。闇は恐怖を招き、人々を不安に陥れますが、その後に光を取り戻す太陽は射手座が象徴するジャンルへの希望を示してくれるでしょう。すでにワクチン接種が進んだ国の人々が「コロナ後」を見据えて動きだしているように、日本もこの疫病を乗り越え、世界との交流を再開させる兆しが見えるのかもしれません。理想、希望を持つ大切さを教えてくれる皆既日食となりそうです。

鏡リュウジさん 1968年、京都府生まれ。占星術研究家、翻訳家。国際基督教大学修士課程修了。10代より占星術、秘教などに関心を抱き、30年以上にわたりさまざまなメディアで活躍。占星術の歴史にも造詣が深い。英国占星術協会会員。

※『anan』2021年6月16日号より。イラスト・しのはらえこ 取材、文・浅島尚美(説話社) 監修・鏡リュウジ

(by anan編集部)