“オニ”が教えてくれる優しさ 『鬼の子』は「宝物のようなコミック」

2021.3.15
野球部の練習を眺めていたオニくん。部を辞めたばかりのみのるのあとをついてきて、グラビアモデルのお母さんと3人で暮らすことに。ながしまひろみさんの『鬼の子』は、そんなユニークな設定で始まる。

勇気を持って踏み出す大切さを教えてくれる、オニくんの物語。

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「節分にちなんで“鬼の子が訪ねてきて鍋を囲む”というイラストをSNSに上げたら、わりと反響があって。そこから、もし『桃太郎』のような昔話の中の鬼に子どもがいたら…とキャラクターから連想しました。前作で描いた主人公が小学生の女の子だったので、その子の友だちみたいなイメージがまず浮かびました」

鬼の子であるオニくんは、最初、異端児扱いされる。自分だけにツノがあるのもコンプレックス。小学校でも浮いてしまう。

「私自身も、社会でうまく折り合えている気がしないので、鬼の子どもならなお大変だろうなと」

だが、〈ひとりじゃできないこと、ぼく(略)やりたいです〉と、野球を介して壁を壊し、仲間になっていく。

「野球をさせる、試合はしようくらいは決めていたのですが、展開や結末など深く考えずに始めてしまい、『こうなったら面白いかもしれない』という思いつきの連続でした」

描く上で大切にしたのは、そのときどきの感情をどう描くかだという。特に、登場人物の多くが言葉をめぐって抱えている「葛藤」を、巧みに掬い上げている。

「どうしても言えなかった言葉があったり、言いたかったのとは逆の言葉を投げつけてしまったり。そういう経験って、誰もがあるんじゃないかなと思うんですよね」

本作には、みのるの家族をめぐるサイドストーリーがある。みのるの父親は有名な元野球選手。妻子を置いて出奔していて、そのことがみのるやお母さん、いまや家族の一員でもあるオニくんをもモヤモヤさせている。そんな亀裂を変えるきっかけをくれるのも、オニくんだ。野球や仲間や家族を通して、子どもたちはもちろん、大人たちも成長していく。

ひとコマひとコマに見惚れるほど繊細な画も、本作の大きな魅力。

「鉛筆で描いたアウトラインをスキャンして、デジタルで着色。さらにアナログで水彩だけのレイヤーを足してテクスチャーをプラスし、デジタルで合成させています。ショートショートで描いていた前作では大丈夫だったんですけど、長いマンガでやってみたら、我ながらこんなに大変だったのか、と(笑)」

愛らしいオニくんの優しさや勇気に否応なく励まされる、宝物のようなコミックだ。

『鬼の子』 「cakes」連載の書籍化。登場人物の目はほぼ「点」だけで描かれているのにそのときどきの喜びや悲しみがしっかり伝わるのもマジック。小学館 各1500円

なかじまひろみ 1983年、北海道生まれ。マンガ家、イラストレーター。著書に『やさしく、つよく、おもしろく』(ほぼ日ブックス)、絵本『そらいろのてがみ』(岩崎書店)が。

※『anan』2021年3月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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