「消費」ではなく「生産」で経済を回す? 転換点にある日本をやさしく解説
自分で作る喜びが、新しい仕事を生む。
五月女(以下、五):‘20年は香港やベラルーシなど、民主化運動が世界の各所で起きていました。
堀:ベラルーシも香港もシリアも、経済格差が民主化運動の根本にあることが多いです。Black Lives Matterもそう。黒人の所得が著しく抑えられていて、教育機会も恵まれず、搾取され続けている構図は、まさに「生きる権利」の問題なんです。声を上げると大きな権力によって逮捕、拘束、場合によっては殺害されてしまう、そうした人権弾圧は無視できません。経済格差の問題は、日本も直面している課題ですよね。知らず知らずのうちに私たちも搾取の構図のなかに生きている可能性もあります。
五:そういうニュースを見ると、自分たちではどうにもならないし、いったい、どうしたらいいんだろうという気持ちになっちゃいます。
堀:意外に思うかもしれませんが、紛争地域や開発途上国の人道支援法がヒントになるかもしれません。その土地で農業を始めるなど、自分たちの仕事を作り、安定した収入が得られるようお手伝いするんです。持続可能な仕組みができると地域は安定します。「生産者になる」ということは大きなポイントになると思います。
五:生産者…ですか。
堀:現在の資本主義のグローバル経済は、海外でモノを安く作らせて、安く仕入れたものをある程度の値段で売って利益を得るという仕組みでした。多く儲けるために、労働力のより安いほうを求め、搾取の流れが加速しました。儲けは企業に吸い取られて、労働者は安い賃金で働き続けるしかない、その不満のくすぶりがやがて争いにつながります。それが、新型コロナによって移動が制限され、海外からモノが入らなくなってしまった。そのとき、地元で作ったものを地元で消費する、土地に根付いた経済活動が支えになったんです。コロナ禍が始まったころ、マスク不足になりましたよね?
五:そうでした! 自分たちで布マスクを作ったりしてました。
堀:消費するばかりの生活だったけど、コロナによって、生産する喜びを知った人が多くいたんですね。お店で高い家具を買うよりも、自分でDIYするほうが楽しいとか、グルメサイトのレストランめぐりをするより、自分で育てたトマトを食べるほうが幸福だとか。
五:よくわかります! 自粛中、家のなかでもいろいろ工夫して過ごすという生活が意外と楽しかったんです。それまでは一人で植物を育てていたのですが、娘もガーデニングに目覚めて、ベランダ中が緑になりました。温泉に行けないからと、バスルームに「湯」と書いて、温泉宿のつもりになって1日3回もお風呂に入ったり(笑)。
堀:それですよ!(笑) 自分で何かを作り出すことに幸福価値を置くようになる。個人もそれができるようになると経済が上向きになります。これまでは消費することで経済を回していました。それによって、モノは安く叩かれ、日本経済は縮小しました。コロナ禍によって、自分で何か付加価値をつけて「生産者」になれたら、1人当たりのGDPが上がります。日本のGDPは世界3位ですが、1人当たりのGDPは25位にまで落ち込んでいるんです。
五:自分で作るとなると、それだけ時間も必要になりますね?
堀:スローライフのような価値観が今後は広がっていくのだと思います。政府は1人当たりの生産を効率的にいかに上げるか、ということに腐心しています。たとえば「介護などの仕事は機械やAIに任せて、浮いた時間をあなたのほかの生産に当ててほしい」と。
五:え? AIで浮いた時間も働かなきゃいけないんですか?(笑)
堀:人口減少、少子高齢化の進む日本は、機械化、AI化によって、生産効率を上げ、いまの税収を維持することが国に課せられているんです。女性もお年寄りも障害のある方もみんな働く「一億総活躍社会」ですから!(笑)
五:休ませてはくれないんだ…。
堀:それも考えようです。「つまらない作業はAIにまかせて、あなたは大好きな野菜作りで生計を立てられるようにしましょう」ということ。YouTuberではないですが「自分の好きなことを仕事に」と理想を掲げています。
五:でも、好きなことをお金につなげるのって難しいですよね?
堀:まず、自分の好きなことは何なのかを知る必要がありますよね。そのための教育や大学のあり方も変わっていかないといけないでしょうね。組織のなかで従順に仕事をこなすのではなく、自分から仕事を生み出す、企業家のような発想が求められるでしょう。
五:なるほど。消費者から生産者への移行って、原始的な社会に還るということなんですか?
堀:いえ。生産にデジタルを組み込もうとしています。どこにどんな作物の種を蒔き、いつどのくらい水をやれば収穫できるのか。AI解析による指導で、プロ並みの農作物が作れるようにするとか。
五:原始と科学のコラボ!?(笑)
堀:コロナによって、業態も変わっていきます。たとえばこれからのレストランは、シェフがレンタルキッチンで作った料理を宅配によって届けてもらうことがメインになっていくかもしれません。
五:新しい仕事を考えないと(笑)。
堀:今後は自力でお金を生み出せる人とそうでない人が出てきます。国は生み出せない人をどうサポートするか考えてほしいと思います。
堀 潤さん 1977年生まれ、兵庫県出身。ジャーナリスト。監督したドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開中。同名著書も刊行。ほかに『堀潤の伝える人になろう講座』等。
五月女ケイ子さん 1974年、山口県生まれ、横浜育ち。イラストレーター。WEBサイト「五月女百貨店」では、‘21年のカレンダーほか、楽しいグッズが絶賛販売中。https://sootomehyakka.com
※『anan』2020年12月30日-2021年1月6日合併号より。イラスト・五月女ケイ子 取材、文・黒瀬朋子
(by anan編集部)