オードリー・タンの“SNSとの向き合い方” もし炎上したら…?
国境を軽々と越えるITの使い手であり、大臣就任後は卓越した先見性と実行力で台湾の守護神としてご活躍。
――畏れながら…オードリー・タンさんには「天才」という枕詞がついて回りますが、うんざりすることは? 自分に貼られたレッテルが不本意だったときはどう対処すればいいでしょう。
オードリー:どう形容されようと私は気にしていません。レッテルというものは、他人の“創作”ですからね。
――つまり、他人が定義した言葉にすぎないと割り切ればいい、と。ただ、学校や職場で毎日言われてしまうと心が折れてしまう人も…。
オードリー:その“創作”を毎日楽しめばいいのです。一日の時間配分を考えたとき、人とやりとりするインタラクティブな時間はおよそ8時間。この8時間は他人の“創作”を楽しむ時間だと考えてください。そして残りの8時間は、自分が楽しいと思うことに使う。そうやって区切りをつけ、気持ちを切り替えられれば、心がアンバランスになる状況は起こりにくいと思います。
――ちなみに、天才と称されるあなたが考える“天才”とは?
オードリー:どんな人にも天性の才能があります。生まれ持った才能、それが天才です。今日、私を撮ってくれたカメラマンなら光の使い方、イメージの運用といった部分。そうしたお互いの天性の才能は簡単に目に入ってくるものです。ですから、先ほどの不本意なレッテルの話の…例えば馬鹿呼ばわりしてくる同級生がいたとする。でも、その同級生は自分にはない何らかの才能を持っているかもしれない。ならば、その人を巻き込んで、一緒に“創作”を楽しんでしまうのも手です。“創作”では、それぞれの長所が生かされ、足りない部分は補完されていく。どんな影響であれポジティブな力に変えていくこと、創造性のあるものに変えていくこと。そして楽しむのです。
――日本の漫才のボケや自虐ネタのようなイメージですか。
オードリー:それもひとつのクリエイションといえますね。
――オードリーさんは、幼い頃から目立った存在だったと聞きますが、多様性を受け入れる土壌が十分に育っていない日本では、突出したキャラクターは苦しみがちです。集団になじみにくい人が生きやすくなるコツはありますか。
オードリー:台湾に引っ越してきてみては。移民を受け入れていますからね。それが難しければ…ネット上のコミュニティに居場所を見つけるというのもよいのでは。画面を介せば、必ずこうでなければならない、という制約は少ないはずです。
――よく語っておられる“ハッシュタグの活用”も、これに含まれますか。キーワードに#をつけたタグとともに発信することで、仲間や居場所が見つかる…という。
オードリー:そうです。ハッシュタグはコミュニケーションの助けになります。
――人間関係でいうと、コロナ禍で、インターネット上で交流する場面が増えました。活用にあたってのアドバイスをいただけますか。
オードリー:マスクの有無はさておき、画面を介したほうが、実際に対面するよりもお互いに意識を向けやすく、コミュニケーションがとれている実感が得やすいように思います。その際に重要なのは、高速のインターネット環境です。十分な帯域幅がない場合、見えにくい、聞こえにくいという状況になり、脳が不明瞭な部分や不足部分を補正するということが起こりがちなんです。すると、自身の思い込みや推測を相手の発言だと誤解してしまうことに。安定したブロードバンド環境の確保は、とても大切です。
――では、SNS上での発言、活用法で気をつけるべきことは?
オードリー:注意点は2つです。まずは十分な休憩時間を確保する必要があります。というのは、通勤時には家から会社への移動時間に気持ちを切り替えることができますが、SNSでは、そうしたタイミングが得られにくいからです。ずっとスワイプし続けたり、こちらの会議から次の会議へ、こちらの動画を見終えたら、すぐさま別の配信へ…と移行し、空白の時間がなくなりがちです。ですから、そうした節目ごとに、少なくとも5分の休憩を設けることが大事です。2点目は、十分な睡眠を取ることです。
――コロナ禍のストレスからか、不用意な発言や相手を責めるコメントも散見される昨今ですが…。
オードリー:心の中に渦巻いている思いを書き出してみることは有意義です。書くことで心の外に出してしまえば、自分から離れていきます。それはきっとあなたの助けになるはずです。ただし、それを発信してしまうと、相手を困らせることになる。ですから、日記を綴るつもりで書き、発信しないことです。
――逆に、意図せず炎上を引き起こしてしまったときには…。
オードリー:コメントの9割が放言だとしても、残りの1割に価値があることもあります。まずこの1割の部分を見つけ、共感し、真摯に対応してください。また、なぜそのような書き込みをしたのかを相手の角度から考えてみると、新しい世界が見えてきます。ですから、自由に言わせておけばよいのです。時には面の皮を厚くして。このスタンスをとれば無礼な発言にも丁寧に対応できるようになるでしょう。
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オードリー・タン 1981年4月18日生まれ。台湾名・唐鳳。8歳から独学でプログラミングを学び、15歳でプログラマーとなり、翌年にはIT企業の共同経営者に。以後、フリーソフトウェアの開発等に取り組む。アップル社の顧問などを歴任し、33歳でビジネス界からの引退を宣言。2016年、35歳の若さで蔡英文政権に入閣、デジタル担当政務委員(大臣)に就任。
※『anan』2020年12月23日号より。写真・Ivy Chen コーディネーター・アイリス・チュウ インタビュー、文・堀 由美子
(by anan編集部)