芸能人にガチ恋、整形手術にのめり込むも…コミック『クラスで一番可愛い子』
「私は整形手術をしてみたかったけどできなかったタイプなのですが、今の10代、20代の子たちはわりとそういう感覚を飛び越えたところにいるような気がしたんです。自分ができなかったぶん尊敬の念もありますし、苦しみや痛みを伴うチャレンジをして道を切り拓いていく女の子を描いてみたいと思いました」
主人公のえりは、推しのイケメン俳優にいわゆる塩対応をされたことで、容姿さえよくなれば振り向いてくれるはず、という思いにとらわれてしまう。整形手術というハードルだけでなく、芸能人に“ガチ恋”をするという一線も越えてしまうのだが、やがて自分自身を傷つけ続けてきた代償を払うことに……。
転じて「怪物の庭」は、中世イタリアが舞台。奇怪な石像や傾いた家など摩訶不思議な空間が広がる「ボマルツォの怪物公園」を訪れて、その誕生エピソードを芸術家の情熱と悲恋の物語に昇華させた。
「イタリアの彫刻が好きなのですが、作中でも描いたミケランジェロの『ピエタ』は本当に美しくて。一方この奇抜な公園の作者は、ミケランジェロの弟子だったピッロ・リゴーリオという人。そのギャップが面白かったし、ピッロのほかの作品とも異なるので余計興味が湧きました」
最後の「バジリスクの道」は、シリアで内戦が激化していた2013年に発表した作品。
「シリアで起きていることをそのまま描いても興味を持ってもらいにくいと思ったので、自分ごととして読んでもらえるように工夫をして、筋を練っていきました」
そして舞台になったのが、シリアではなく現代の日本。通った道に毒を残して人を殺すバジリスクという想像上の蛇をモチーフに、平和な日常が脆く崩れてしまう様を描く。
「3作品、本当にバラバラですが、どれも私が興味を持って描かずにはいられなかった物語。『クラスで一番可愛い子』は読者さんに向けて描いた気持ちが強いですし、『怪物の庭』は旅の思い出に描いた作品。『バジリスクの道』はシリアの惨状をニュースで見て、何かできないかという思いから生まれました。自分の中で何かしら引っかかる“描きどころ”さえあれば、私の場合はどんなテーマでもいいのだと思います」
こう来たか! と想像を軽々と超えてくる感覚が、癖になるはず。
『クラスで一番可愛い子』 推しに認識してもらいたい一心で、整形手術にのめり込む女性を描いた「クラスで一番可愛い子」ほか、2編を収録。本書の印税の一部がシリア難民への寄付に。祥伝社 880円 ©山中ヒコ/祥伝社FEEL COMICS
やまなか・ひこ マンガ家。2008年「初恋の70%は、」で商業誌デビュー。主な著作に『新装版 森文大学男子寮物語』『イキガミとドナー』など。
※『anan』2020年11月18日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)