今まで想像もしなかったところに、私の本が届いているのが嬉しい。
――2冊目の著書、『私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。』の完成、おめでとうございます!
ありがとうございます! 今回の本はムックなので、書店だけではなくコンビニに置いていただいていることにちょっとびっくりしています。うちの近くのコンビニでこの表紙を見たとき、明らかに他の雑誌とは違う異彩を放っていて不安になったのですが…(笑)。でも翌日行ったら無事に売れていたので、ホッとしました。
――もともとブログで発信していらした平野さんが、雑誌で連載したものを本という形にまとめたのは、初めてですよね。
そうなんです。ブログやインスタで何かを発信すると、コメントや「いいね」などでリアクションをたくさんいただくんですが、今回の本は、SNSなどでつながっていない、その向こうにいる人たちに届いているという実感があります。その一例が、作家の吉本ばななさんが、ご自身のブログにこの本のことを書いてくださったこと。まったく面識もないばななさんが、この本をどこかで見かけて購入し、読んでくださったそうで。そのように、思いがけない方の目に触れるっていうのは、本ならではの喜びだと思います。
――平野さんが“食日記”をつけ始めたきっかけは?
当時福岡から一家4人で東京に引っ越してきまして、“おのぼりグルメ”的に、父が気になるレストランに家族で週末に出かける時間がすごく好きだったんです。レストランのドアを開けると素敵な空間が広がっていて、みんな笑顔で楽しく会話をしながら、今まで味わったこともない美味しいものを食べる。うちの両親はものすごく仲が良かったわけでもないんですが、レストランで食事をするときは、すごく穏やかになるんです(笑)。本当にレストランは、夢のような場所だった。でも家に帰って、寝て、翌朝起きたら、昨日の夜の素晴らしい感動は何一つ形として残ってなくて、しかもお腹もすいている。それでどうにかしてこの感動を残したいと思って、食日記を書き始めました。その後、ブログなど形を変えながら、中学、高校とつながっていき、大学生のときに書いていたブログを見た編集の方から、「本にしませんか?」とお声がけをいただき、1冊目の本につながりました。
――小学生のときから、食と、今の仕事に一直線だったんですね。
言われてみれば確かに。高校生くらいから食文化に関わる仕事をしたいと思ってはいて、でもそれが、お店をやることなのか、料理を作ることなのかはよくわからなくて。大学に入る前、食の経営者などの話を聞く大人向けのスクールとかに通ったりもしてました。名だたる飲食の会社の社長さんたちと並んで、レストランジャーナリストの犬養裕美子さんが講師の回があり、そこで“食にまつわる文章を書く”仕事があることを知ったんです。それで、私もやりたいと思い、犬養さんに“修業させてください!”って、お手紙を。
――すごい行動力!
犬養さんへの憧れの気持ちをしたためた熱い手紙と、自分で書いた文章をまとめたポートフォリオみたいなものを送ったんですよ、今思うとはりきってます(笑)。
――犬養さんはなんと?
「修業はできません」と(笑)。でも、「あなたはあなたで素晴らしいものを持っているから、自分の道を見つけて、自分なりの職業を早く名乗っちゃいなさい」みたいなことが書かれた返信をいただいて…。大人の方が真摯に対応してくださったことはもちろん、その言葉に本当に励まされました。
――改めて今、店で素敵な食に巡り合うことの魅力とは何ですか?
私にとって外食は、映画を観に行くようなもの。扉を開けた先にはワクワクする空間が広がり、一歩足を踏み入れるだけでドキドキ、アドレナリンが出てしまう。お店のインテリア、スタッフの方の佇まい、隣の席の方の会話、お料理などの味、そしてお店を出た後に振り返りたくなるあの気持ちまで…。私はそれを“食体験”と呼んでいるのですが、もはやそれは総合芸術です。お店ごとに味わえるその感動を、いろんな方と分かち合いたい。それが私がこの仕事をしている理由な気がします。
雑誌『Hanako』での連載をまとめた『私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。』(小社刊)が好評発売中。毎回1つの街と、そこにある食をテーマに散歩をし、そこで出合ったあれこれを紹介する内容は、さながら“街と食文化のフィールドワーク”。これでもか! と詰め込まれた情報量は圧巻! 読み応えたっぷりです。¥1,600
ひらの・さきこ 1991年生まれ、福岡県出身。小学生時代から食日記をつけ続け、大学在学中にブログが話題に。2014年にエッセイ『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)を発売。現在は、雑誌やウェブなどで食にまつわる連載多数。また、プロデュースするお菓子「(NO) RAISIN SANDWICH」も大好評。Instagramは@sakikohirano
※『anan』2020年10月7日号より。写真・清水奈緒 インタビュー、文・河野友紀
(by anan編集部)