自分のせい、と抱え込みすぎないで。自身の体験からの優しいメッセージ。
「15年くらい前のことです。大人になればなるほど、当時19歳だった女の子に、周囲の大人はなぜあんなひどいことをしたんだろうと思って」
当時のことはブログに詳細にまとめていた。たまに読み返すたびに、怒りや孤独感がぶり返したそう。
「ここにも描きましたが、13年経って、あの町に戻ってみたら、自分が苦しんでいたことなど何も残っていないんですね。私のことも誰も覚えていないと思う。でも私にとっては忘れられない1年で、だからこそ、誰かに聞いてもらいたい、話したいという思いが湧いたんですよね」
お客さんからの理不尽なクレームや横柄な態度、アルバイト仲間たちからの無視やいじめ…。読んでいてつらくなるが、似たような目に遭ったことがある人もいるかもしれない。
「ネットなどでは『そんなにつらいなら辞めたら?』『ブラックな職場なんて行かなければいいのに』という意見も見ます。でも私はあのころの自分を思い出すと、『辞めます』が言えずに追い詰められていく人の気持ちがすごくわかる。意志が強くてスパッと言える人もいるだろうけれど、気が弱くて言えない人もいると知ってもらいたいですね」
後半になると、上から目線のパワハラだけでなく、バイク好きな山本さんとバイク談議したいのかと思えばずうずうしく〈ボロバイクならくれへん?〉と言ってくる男や、山本さんを慕ってきたのかと思えば口説きに入る後輩など、トンデモ度はますます広がり…。結末はぜひ本書で。
「神戸行きもバイトも自分で決めたことなので、親にも友だちにも言えなかったですね。自分の選択が間違ってたと認める勇気がなくて。いま思えば、もっと早く見切りをつけて地元に帰ればよかったし、甘えてもよかった。いま悩んでいる人には、『早くSOSを』と言いたいです」
やまもと・さほ マンガ家。神奈川県出身。『週刊ファミ通』で「無慈悲な8bit」連載中。『きょうも厄日です』(文藝春秋)ほか、著書多数。
『この町ではひとり』 2005年から1年のストーリー。大人になったからこそ過去の自分に寄り添って描けた『青春の蹉跌』的な作品。「あとがき」「描きおろしのおまけマンガ」付き。小学館 1100円 ©山本さほ/小学館
※『anan』2020年9月23日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)