もう戻らない。中2少女と、姉と、姉の友だちを結ぶ甘く苦い恋の日々。
コミック『姉の友人』の著者が、ばったんさん。これまでにも、女性たちの繊細で言葉にしがたい感情をマンガにしてきた。たとえば、好き合っていた女性同士が心を残しながらも一方が別れを選ぶ本作の展開は、既出作『かけおちガール』(講談社、全4巻)とも重なる部分がある。
「私は、可愛い女の子が苦しんだり悩んでいたりするときのちょっと憂いのある顔が好物で(笑)、そういうものに無条件に惹かれてしまうんです。逆に男性は、自分にとっては未知の生物。いまひとつ心理がつかめないので、どうしても女性中心のストーリーになってしまいますね」
自分を見つめる今日子さんの蠱惑的な瞳や優しいボディタッチに、るりこはドキドキし、急速に惹かれていく。一方で、学校に行けば否応なく、自分は彼女に釣り合うほど大人ではないことを思い知らされ、傷つく。るりこの淡くあまりにピュアな恋心に、読者もきゅんとしてしまう。
「中学生って本当に大人と子どもの狭間にいる。その中途半端な感じが『いいものだな』と思いました」
視点人物を変えながら物語は進み、やがて姉のナッちゃんと今日子さんが疎遠になった理由も見えてくる。三者三様の恋心は行き違い、その傷口を見つめるうちに思いも変化する。
「恋は叶ってしまうと幸せのピークは過ぎてしまう。逆に、叶わない恋はずっとピークを追い続けているようなものだから、三角関係や片思いのようなつらい恋愛の方が美しく思えて。思い出すと苦くなることってあるじゃないですか。それを抱えながら生きている人が好きなんです」
百合マンガにくくられるだろうが、著者自身には違う思いがあるという。
「大切なのはこの人と一緒にいたいという気持ちで、恋の対象が男か女かはどっちでもいいんじゃないかと。みな、居心地のいい人に惹かれていくだけのことではないでしょうか」
この夏から始まるという「トーチWeb」での連載も楽しみだ。
「恋愛は描き切ったとも思うので、これからは、恋愛という枠に収まらない女性同士の親密な関係を描きたい。新連載の『ヘラたちの家』は、そういうお話になると思います」
ばったん『姉の友人』 姉の友人の今日子さんが急に姉と疎遠に。一方でるりこは、自分に急接近してくる彼女に戸惑いつつも惹かれ…。この悲恋の機微は、女子だからこそ泣く。リイド社 750円 ©ばったん/リイド社
ばったん マンガ家。東京都出身。コミティアで活動を始め、2016年に商業誌デビュー。他の作品に『にじいろコンプレックス』(全2巻)などがある。
※『anan』2020年8月12日-19日合併号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)