企業からの依頼にどう応えた? 工夫が楽しいタイアップ作品集。
「発注の内容をオープンにしていいと言ってくださった企業の方々に感謝しています。感想戦は、ここを頑張りました、褒めてください、と自分から言っていくスタイルです」
たとえばゾンビ漫画『アイアムアヒーロー』の映画化記念のアンソロジーに書いた青春短編は、注文されてないのに原作のキャラクターや台詞を登場させ、かなり苦労したのだとか。
「でも、私の短編に対しては驚くくらい読者の感想がなくて。もとからの私の読者に届けたら面白がってくれるのではと思い、そのためにこの本の企画が始まったんです」
難しかったのはキャラメルの箱に載せた、文字数の少ない掌編。
「数百字のなかに登場人物の情報を入れなくちゃいけない。文字数が極限まで削られている俳句のすごさを思い知りながら書きました」
一方、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』と『チア男子!!』のコラボ小説では、思わぬ初体験が。
「両さんを登場させたら、もう勝手に行動して事件を解決してくれるんですよ。作家がよく言う“登場人物が勝手に動く”というのを初めて体験しました。しかも自分じゃない人が作り出したキャラクターで」
思わぬ仕掛けとしては、
「基本的には、登場人物の名前にその会社の会長や社長の名前を使っています。社内ウケが欲しくて」
と、読者、商品、クライアント全方向にサービス精神を発揮。
「タイアップは“やりまっせ!”という意識に変わって、つい“全力下僕”をやっちゃうんですよね」
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ただし最後の書き下ろし「贋作」は、まったく異なる読み心地。
「頭にあったけれど出しどころがなかった話を書きました。自戒を込めて書いています」
昔から「怒り」が執筆の原動力と語っていた朝井さんらしい一編だ。
「今後は“怒り”がマイルドな名前に変わりそうな気がします。でも“読んで幸せな気持ちになれた~”という小説を書けるようになるまではまだ時間がかかりそうです」
あさい・りょう 1989年生まれ。2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。’13年に『何者』で直木賞、翌年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。
『発注いただきました!』 キャラメルが登場する掌編、aikoの楽曲を題材にした小説、“20”にまつわる短編…さまざまな発注にどう応えたのか? タイアップ作品集。集英社 1600円
※『anan』2020年4月8日号より。写真・土佐麻理子(朝井さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)